【森繁さんが「頭がいい作家がいる」と連れて来た】
森繁(森繁久彌)さんが「師匠」であることは前回お話ししましたが、ボクにはまだ「師匠格」の人が2人います。作家の向田邦子さんとザ・ドリフターズのいかりや長介さんです。
実は向田さんとは森繁さんの紹介で知り合いました。「頭のいい作家がいる」と森繁さんが連れてきたんです。当時、すでに「天皇」といわれていた森繁さんの紹介ですから、「1回は使わなくてはならない」と、1度書かせてみた。それがメチャクチャな本で、とても映像にできるようなもんじゃない。「ずいぶん前衛的な人だなぁ」と思いました。
後から考えると、台本の書き方を何も知らなかっただけで何回か書いてもらううちに光るものがある。助監督をやっていたボクが撮りたいと思うピカッと光るシーンを書いてくるんです。結局、彼女とは、飛行機事故で亡くなるまで約20年の付き合いになってしまいましたね。
向田さんとは仕事より昔の話をよくしました。境遇がよく似ていたんでしょうね。お互い東京なんですが、ボクは父親の仕事の関係で、小学校時代、5回転校するという“流浪の民”でしたね。ボクは疎開先の富山、向田さんは目黒で戦災に遭ったそうです。
戦時中はよく暗闇といわれますが、向田さんとは「あの頃だって私たちは結構楽しかったよね」なんて話しましたよ。親は子供を守ってくれたし、子供は子供で遊びを見つけていましたからね。
もうひとりは、いかりや長介さん。意外に思われるかも知れませんが、いかりや長介さんはボクのお笑いの師匠なんです。ザ・ドリフターズの『8時だヨ!全員集合』を毎週見て、いかりやさんはどうやってギャグを作るのか、興味があったんです。思い切って、プロデューサーに「俺に撮らせてくれないか」と頼んでみたら、長さんも歓迎してくれた。ボクは今もお笑いをやってますが、イロハを教えてくれた長さんには頭が上がりません。(「日刊ゲンダイ」2006年3月23日号より引用)
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【暴れ方に周囲がマジで逃げ回っていた】
『時間ですよ』や『ムー一族』などいろんなドラマを撮りましたが、当たったと実感したのは『寺内貫太郎一家』でしたね。
あのドラマは向田さんの父親がモデルなんです。あの頃のドラマは女性上位で、京塚昌子さんの『肝っ玉母さん』や山岡久乃さんの『ありがとう』と女性が主役だった。その中で、向田さんの考えで突然、『寺内貫太郎一家』がスタートしたんです。
核家族化していく時代に大家族主義の3世代家族。おばあちゃんの世代を樹木希林がやり、貫太郎に小林亜星、母親が加藤治子さん、娘に梶芽衣子と長男に西城秀樹、お手伝いに浅田美代子というキャスティングでした。
貫太郎は強いキャラクターを設定して、亜星さんにしたんです。名前からして堂々として古めかしいでしょ。昔かたぎで頑固で力持ち。そのくせ、口下手ですぐ手が出てしまう。封建時代の遺物のようなオヤジ。「ああいうお父さん、昔はいたね」って思うでしょ。今はリビングで食事ですが、設定は時代に逆行して、畳の部屋でちゃぶ台で、家族が全員揃って、神棚に手を合わせてからじゃないと食事ができない。それをしないと、必ず貫太郎がちゃぶ台をひっくり返す。それがボクにとっては痛快でした。
でも、共演者は大変でした。亜星さんは素人だから、手加減を知らない。秀樹なんかマジに投げ飛ばされて、腕を骨折したんです。希林も加藤さんも梶も浅田も怖くて逃げ回っていましたよ。ホント、迫力のあるドラマでした。
その代わり、主婦からの抗議はすごかったですね。放送でちゃぶ台をひっくり返した時の翌日は非難ごうごうで、抗議の電話が殺到しました。もっとも、怒り方が変わっていて、「食べ物を粗末にするな!」だけじゃないんです。「後片付けをするのは一体誰なの?」という内容が多いのには驚きました。(「日刊ゲンダイ」2006年3月24日より引用)
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【『時間ですよ』への抗議電話は凄まじかった 】
『時間ですよ』もいろいろありました。
『寺内貫太郎一家』に抗議が殺到したと言いましたが、『時間ですよ』もハンパじゃなかった。初めのシリーズはモノクロだったんです。次の2シリーズ目からカラーになったんですよ。その前からも、女の裸を出すとは何事か抗議はあったんですが、カラーになってからはすさまじかったですね。女の風呂上がりの裸がカラーだとアピール度が違うんでしょうね。「子供が起きてる時間に」と番組が終わるまで抗議がありましたよ。
ま、抗議が来ることは、番組が「当たった」ということでね。確かに、視聴率は良かったです。おかげで、番組から出た浅田美代子がクロースアップされた。ボクが彼女を育てたと言う人もいますが、本当は「勝てば官軍」で、視聴率が良かったからそう言われただけの話。もっとも、ボクにとってもトクだから、あえて否定はしませんけど…。
おかみさん役の森光子さんはボクが担ぎ出したのではなく、初めから決まってました。おかみさんというのは割烹着を着て、いつも笑顔といった固定的なイメージがあって、簡単に演じられると思われているけど、実際は育った環境によって千差万別です。それを脚本からいかに読み取れるか。森さんは、見事に演じてくれましたよ。
日本に脈々と流れる人情話を、森さん以上に演じられる女優はいないと思いますよ。その森さんでやったから視聴率が取れたんだと思ってます。(「日刊ゲンダイ」2006年3月27日号より引用)
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