ピリミー族の子ども・黒べえ(声:肝付兼太)がジャンボジェットにしがみついて、アフリカから日本へやって来た。魔法や呪術を使える黒べえは、偶然出会った少年・しし男(声:杉山佳寿子)の家に住み、騒動を巻き起こす。
藤子・F・不二雄(藤本弘)原作のテレビ『ジャングル黒べえ』(1973)は、長らく封印状態であったが2015年に初ソフト化された。発売を記念して、12月に主演声優・肝付兼太氏のトークショーが阿佐ヶ谷で行われた。肝付氏は『ドラえもん』(1979〜)のスネ夫役を26年務めたほか『キテレツ大百科』(1988)や『TPぼん』(1989)、『21エモン』(1991)など藤子アニメの常連である大ベテラン。主宰する劇団の公演『ギヤマンの仮面』(2015)を終えたばかりだった(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
お懐しゅうございます(一同笑)。人間の臓器の中で、声帯がいちばん丈夫だそうです。仕事を選ぶなら、声優ですね。
ついこないだまでスズナリ(下北沢のザ・スズナリ)で芝居をやってて、そのときより拍手が大きいですね。これで3年くらいは生活安泰ですよ(笑)。
【『ジャングル黒べえ』について】
43年前ですね。最近ではきのうのことも忘れる(笑)。
藤本先生の作品は(登場)人物の配置がいつも決まっているんですが、『黒べえ』だけはジャングルから来た少年とか違うんですね。ピリミーからやって来た少年は、どんなアクセントで喋るのか。標準語、関西弁、東北弁でもない、どうしようかなって。ウラウラベッカンコーにはまいりましたが(一同笑)。
声の高いところがいま出にくくなっていて。40年経てば死にますよ。当時は自分でかわいいと思ってたけど。
こないだね、1・2話を試写室で見せていただいて。何人も座れるところに4人ぐらいで(笑)。心配だったけど綺麗でした。当時モノクロ(の番組)が多かった中で、綺麗な色だなって思いましたね。
プロデューサーには主題歌を唄いなさいって言われて、でもはずかしい。合いの手だけ入れさせてくれと、印税が絡みますから(一同笑)。大杉(大杉久美子)さんが唄って、ぼくは台詞のためにコロンビアのスタジオに行きました。カラオケで唄っていただくと、ぼくに4円(一同笑)。
しし男くんをやってくれたのが(『アルプスの少女ハイジ』〈1974〉の)杉山佳寿子さん。あるとき間違えてハイジって言ったら、怒られました。八奈見乗児さんが偏屈じいさん役で、アドリブ飛ばすのが面白いんですね。いろんな出演者の方がおりましたけど。スタジオは新宿の、いまのKDDIのところでした。
『黒べえ』はアドリブさせることが多かったですね。愉しいですけど、アドリブは台本に書き込むものではない。テストテストでぱっと言う。音響監督を振り返ると、目を丸くしてOKと。
アニメーションの場合は絵が大げさに描かれてて、普通のシリアスな演技では絵に追いつかない。だから芝居をしよう、普通の台詞の4倍強調しよう、そのくらいやってちょうどいい。画面にもよりますけど。
黒べえは足が速くて40〜60キロで走る。お父さんが会社に遅刻するから、担いで走る。会社へ着くと、お父さんの洋服だけ。ああいう面白いのを、物静かな藤本先生がよく考えるなって。落語がお好きだそうで。
落語は言葉の世界ですから、声優にはいい。いまの若い人(声優)は落語の巻き舌、べらんめえ口調がなかなか言えない。落語って物語も面白いんですが、枕もいい。
【若き日の想い出(1)】
ぼくが小学校から中学のときはラジオしかなくて、NHKラジオだけ。『二十の扉』『話の泉』とか。現場に行ってみたいなと思って、申し込んだらふたつとも抽選に当たって。内幸町のスタジオへ行って、いいな、こういうところで仕事したいってあこがれました。
祖母に映画俳優になりたいって言ったら“俳優はみんな鼻筋がピンと立ってるよ”って。無理じゃないかと。真剣に考えて、それじゃ顔を見せないで済む声優がある。NHK放送劇団は倍率がすごくて、当時は専門学校はあまりなくて。(つづく)
【関連記事】野沢雅子 × 肝付兼太 × 鈴木伸一 トークショー レポート (1)
- 作者:藤子・F・不二雄
- 発売日: 2010/05/25
- メディア: コミック