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原恵一監督 トークショー レポート・『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』

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 エスパー魔美 星空のダンシングドール』(1988)、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(2002)、『河童のクゥと夏休み』(2007)など幾多の秀作アニメーションを監督し、今年は杉浦日向子原作の最新作『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』(2015)を発表した原恵一。『百日紅』はアヌシー国際アニメーション映画祭にて長編部門審査員賞を受賞。12か国での公開が決まっているという。

 原氏は『百日紅』によりASIAGRAPH 2015 創賞を受賞。10月にお台場にて受賞を記念するトークショーが行われた。原氏と同時に匠賞を受賞したロボット工学者の石黒浩氏もトークに参加され、おもしろい話もいろいろあったのだが、筆者の能力の限界により原氏の発言に絞ってレポしたい。授与の後にトークが始まる際、原氏のネームプレートが “原健二” となっていて、会場の人が慌てて引っ込めていた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。 

 (受賞は)大変光栄です。アニメーションに入って33年くらい。最初から世界を目指していたわけでなく、子ども向けアニメから始めて。記録メディアもなく、1回オンエアしたらそれっきり。いまは、日本のアニメはどこの国へ行っても好きな人がいるようになって。いきなりそうなったわけじゃなく、先輩たちが作品をつくってきて、それでいまがある。ぼくも一歩一歩地道につくっていこうと思います。

 (トークのために事前に)何も用意してこなかったんですけど何を話せばいいのかな。原作の杉浦日向子さんの作品は大好きで、映像化したいと思っていて。ハードルが高いので、つくるにあたって自信があったわけじゃないけど、縁があってプロダクションI.Gさんがやると言ってくれてつくることができた。この作品を別の監督さんで企画を動かしたこともあったらしいけど。ぼくは個人的にI.Gの石川(石川光久)さんに営業に行って「一度はあきらめてたけど、じゃあやろうか」と。タイミングと縁ですね。つくるべきときだったのかな。

 (日本のアニメの)紙と鉛筆で描いていくスタイルは(アメリカと)違いますよね。時代劇ということもあって、アニメーションでしかできない江戸の景色とか現代の技術で描きたいと思った。3DやCGは現場に導入されているけど、いちばん大事なのはうまいアニメーターの技術。紙に鉛筆で描いていくのが大事っていうのは、日本のアニメの中で変わっていないんじゃないかな。

 北斎葛飾北斎)の世界的な知名度は意識しましたね。海外で公開されるというのも意識してつくっています。もし外国でこの作品をつくっていたら全然違ったでしょうね。

 絵を描く人も日常的に着物を着ているわけじゃない。だから着物を着た人(キャラクター)の所作やシルエットにはものすごく苦労したみたい。でも日本人だから全く違う文化ではないので、何とか成立したとも言えるでしょうね。

 浮世絵づくりはアニメーションづくりに似ている。分業制で庶民のためのものをつくる。ぼくらみたいな商業作品をつくっているのと近い。絵師が下絵を描いたら、木版に彫る人がいて、色を指定する人もいて初めて完成する。ひとりが全部やるんじゃなくて、いくつかの行程を経て完成するんですね。

 ぼくらがやってる作業は数値化できないですから、やっぱり一代限り。でもアニメーションはいきなり生まれたわけではなく、いまも集団作業で、つまり技術は受け継がれてきた。

 アニメの世界に入ったのも思いつき。意外とそんなふうな人のほうが長続きできるかも。いつか監督にと思ってたわけではなく、絵を描く仕事をしようと思って入ったら周りにもっとうまい人がいっぱいいて、それでアニメーターから監督にシフトして、いま監督になってる。

 基本的にいい人は監督になれない。どっかで非情な、そういうところがないと。どっか非常識なところとか、自分もそうだという自覚がある。スタッフにだけでなく自分に対しても非情にならなきゃいけない局面もある。涙を飲んで、つくりたい場面を切らなきゃいけないとか。

 (怒ることは)まあそんなにないですね。ぼく自身は監督らしくなりたいと思っていますけど。

 ぼくはアニメーター出身ではなく、いろんな人にいい絵を描いてもらわなきゃいけない。その人をうまく乗せるっていうか。

  ぼくは職業上の夢が叶ってしまって。やりたいこととか、つくりたいものが常にたくさんあるタイプではない。『百日紅』では、また夢が叶ってしまった。いまは無職。監督と言われるのもおこがましい(笑)。次の仕事が決まったら監督になるけど。フリーはみんなそうですね。次は何をつくるか、決まってないですけど。

 (映画制作には)持続力が必要で、1日2日徹夜してもどうにもならないですね。毎日長距離走のように、きょうはここまで、あしたはここからここまでっていうペースを維持していくのが映画をつくるコツなのかな。

 (予算が50億あったらと訊かれ)5億で十分かな(笑)。

 

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アニメーション監督 原恵一

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