私の中の見えない炎

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杉井ギサブロー × 古川雅士 × 丸山正雄 トークショー レポート・『哀しみのベラドンナ』(1)

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 領主が権勢を振るう中世のフランスで若いジャンヌ(声:長山藍子)とジャン(声:伊藤孝雄)は結婚するが、ジャンヌは領主(声:高橋昌也)に処女を奪われてしまう。そのジャンヌの前に悪魔(声:仲代達矢)が現れ、やがて彼女を過酷な運命が襲うのだった。

 深井国のイラストで大胆に止め絵を駆使した、山本暎一監督『哀しみのベラドンナ』(1973)は、70年代につくられたのが信じられないほどの実験的・アートアニメーション。この作品が普通の映画館でメジャー公開されたというのには驚かされる。制作は巨匠・手塚治虫の率いる虫プロダクションだが、手塚は制作にタッチしていない。

 9月に三鷹リバイバル上映と作画監督杉井ギサブロー、編集の古川雅士、プロデューサーの丸山正雄の各氏によるトークがあった。

 上映をSNSでお知りになったという山本監督の長女の方からメールがあったそうで、トークの前に9月7日に山本監督が逝去されたことが伝えられた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

杉井「びっくりしたんですけど、3年前くらいに横浜で会ったときはもう耳が聞こえなくて。丸山さんたちと打ち合わせに行ったんですけど、その後は直接会ってないかな。電話はダメなんでメールのやり取りをしていたんです。

 ドイツのオリンピックのドキュメンタリーをつくった監督さんがいますよね。ヒットラーの愛人とか言われた人(レニ・リーフェンシュタール)。山本さんは彼女の映画をつくりたいということで分厚いシナリオを送ってきてくれたんですけど。1年前くらいに、また書き直したんで見てくれと膨大な脚本が送られて来たり、山本さんにはまだまだつくりたい作品があってほんとにエネルギッシュだったと思いますね」

古川「亡くなったのはきょう初めて聞きました。最後に会ったのは7、8年前。新聞に載らなきゃおかしいような人なのに」

丸山「すごい実行力で、プロデューサー的な企画開発の才覚もありました。日本テレビの牛山さんと組んでドキュメンタリーをやったり。山本暎一に意外とスポットが当たってないと思うんだけど、語り継いでアニメ界の遺産をつないでいかないといけないんじゃないか」

 

【『ベラドンナ』と虫プロの時代 (1)】

杉井「手塚先生の虫プロダクションで、まだその社名もなくて第1作『ある街角の物語』(1962)をつくってるときにぼくは手塚邸に行ったんですけど、山本さんと坂本雄作さんのふたりがいました。山本さんは横山隆一さんのおとぎプロ出身で、アニメーションの監督というより一般的な監督みたいなところがあって、編集にいちばんこだわる。編集室に入るとねばりねばってつくっていく」

丸山虫プロで何とかテレビ『鉄腕アトム』(1963)をつくって次に『ジャングル大帝』(1965)をつくるってときに、手塚さんがいたらできないということで手塚さんを出入り禁止にしちゃった。その張本人が山本監督。真崎守ってプロデューサーと組んで。手塚さんがつくった会社なのに、手塚さんは来ちゃいけないと(笑)。それだけの力があった。暎一さんもすごいんだけど、認めちゃう手塚治虫もすごい(笑)。『ジャングル大帝』のテレビシリーズの背景の油絵みたいな色合い、冨田(冨田勲)さんのミュージカルシーンとかみんな山本さんのもとで行われたもので、手塚色はほとんどないと思うんですね」

杉井「『ジャングル大帝』のときにスタッフがストライキみたいのをやったんですね。暎一さんの言ってることがよく判らないということで、現場のアニメーターたちが反旗を翻した(笑)。すぐ解決しましたけど」

 手塚総監督 × 山本監督で『千夜一夜物語』(1969)、『クレオパトラ』(1970)が制作された。

 

杉井「『千夜一夜』と『クレオパトラ』ではメインの手塚先生がコンテを切ったりして、山本さんは監督だけど手塚作品。ベースは手塚先生がつくった。それで2本つきあってもらったという意識が手塚先生にあったと思うんですね。大変な思いをさせてご苦労さまということで1本好きなものつくっていいと手塚先生に言われたと、聞いた話ですけど。そこで山本さんがジュール・ミシュレの『魔女』(岩波文庫)を、劇作家の福田善之さんに脚本を頼んで映画化すると。

 ぼくは虫プロを離れてグループタックにいたんですけど、山本さんが来て3000~4000万円で映画をつくると。『千夜一夜』は多分3~4億はかかってますし、3000万で劇場映画は無理なんじゃないですかって言ったら、動かないようにすると。そこでぎっちゃんに頼みがある、ぼくの話は現場の人に誰ひとり理解してもらえないんじゃないかと思うから、通訳をやってほしいと(一同笑)。このシーンで何をやりたいんだと言うから、ぎっちゃんは現場の技術用語に翻訳して伝えてほしいんだって。ぼくができるなら引き受けましょうと。ヨーロッパのアート系でシュールなアニメーションはありますけど、日本ではそれも長編アニメ映画ではなかったと思うんですね。ただやはり3000万ではできなくて、一説には『ベラドンナ』が虫プロをつぶしたというんですが、そんなことはないんですけど3~4億はかかっているんじゃないでしょうか」(つづく