【『蜘蛛の瞳』(2)】
篠崎「『蜘蛛の瞳』(1998)は大胆な映画で、娘が殺されている設定は同じで、復讐は冒頭で終わって、不可思議なことが起こる。寺島進くんは死んだのか、白い布につつまれたものは何か、とか。
会社に入るころに、哀川(哀川翔)さんが酔っぱらっているのを説得するシーンが2回ありました」
黒沢「ああ、そうだった」
篠崎「黒沢さんは編集の段階で、シーンを入れ替えることがありますね。
きょう、西山さんにメールしたら、ちゃんと答えが来まして。予定稿の仮タイトルは“殺し”で、寺島さんをちゃんと殺している。映画はシナリオ通りだと。
復讐は冒頭で貫徹。あとは別次元の話になっていく。印象に残るのは夫婦の関係性です」
黒沢「そう、それが主軸ではないけど、サブストーリーになってる。家に帰ると奥さんとの微妙な関係があるのは、『CURE』(1997)と似ている」
篠崎「奥さんも仕事していて、状況を変えたいという気持ちがある。復讐物から外れていきますね」
黒沢「この作品もキャスティングが決まっていて、紅一点を出してくれと。どういう設定の女性にしようか、結構悩んだというか。復讐に女性が入る余地がない。じゃあ一方で奥さんがいることにするか、と。キャスティングの必要がなければ、出てこなかったかもしれません」
篠崎「『CURE』の中川安奈さんのように病んでいるわけではないけど。
黒沢さんの映画は、どっかへ旅に出ようって必ず言いますね」
黒沢「うーん、あ、言うね。現状に満たされないから、旅行すれば気分も変わるかなと。特に深い意味はなくて、自分の少ないストックのせいで、似たことを繰りかえしてしまうんですね」
篠崎「でも(黒沢映画も)変わってきていて、以前は女性が主人公を支えていたけど、やがて女性が前面に出て動くように変わった感じがして。女性が牽引していくように」
黒沢「物語を意識的に選びとってないですね。そのときの要請に応じて、Vシネマは哀川翔さんが主人公だから男性だけど。WOWOWの『贖罪』(2012)は、女性ですね。ぼくが選んだんじゃなくて、これやってと言われたんですが。女性中心の原作だったので、こういう女性の主人公でも一応やれるんだってなったんですかね。ぼくも、できるんだなと(笑)。以前は、女性は奥さんにするかとか気を使ったんですが、『贖罪』は5人も出てきたんで、原作があったからですけど、それなりにやれた。女性でもいけますよ、と。
(デビュー作の)『神田川淫乱戦争』(1983)は、女性主人公にしてくれと言われました。
そんなにパターンはないので、男の主人公であれば女性は妻か恋人にするか。男女が激突しないですね。ぼくの映画だと、男女は腫れ物に触るみたいに」

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【俳優と現場】
黒沢「ダンカンさんの手下役で、5、6人オーディションにいらっしゃったのが、阿部さんと宮藤官九郎さん。知らなかったんで、阿部さんを選んで、宮藤さんを落としちゃって。失礼なことをしてしまって(一同笑)。
大杉漣さんもあまり知られてなかったし、当時はVシネマを、演劇などで活躍していてもあまり知られてない人がつくっていました」
篠崎「黒沢さんは、現場では俳優の人に台詞の抑揚とかニュアンスとか、具体的なことはおっしゃらないですね。でも黒沢作品の俳優さんは、ほか(の作品で見るの)と違うなって」
黒沢「ぼくはよく判らないけど、すぐOK出しちゃう。俳優は、すぐOKが出るな、下手なことやってもOKが出ちゃうって案外妙な緊張をして。最初の何気ない感じを残しつつやってくれる。自分では、いいと思ったからOKなんですが」
篠崎「黒沢作品を経験した俳優の方に訊くと、余分なプレッシャーがかからないから気負わなくていい、と言われていて。『クリーピー』(2016)の現場では、西島秀俊さんもリラックスされていましたね」
黒沢「簡単にOKがでるのが、プレッシャーかも。俳優に関してはよく判りません。
『蛇の道』(1997)の現場もリラックスしていて、時間的には厳しかったけど、朗らかに。こういう陰惨な映画の現場は、大抵愉しい(一同笑)。
きょう山根貞男さんと雑談していて、寅さん映画の現場を山根さんが見学に行ったら、とらやのシーンを撮っていて、ほんとに暗いんですって(一同笑)。みんな緊張していて、そんな現場であんなに面白おかしい…。それくらい厳しい現場だったんですね。明るい現場から『蛇の道』みたいな映画ができる。それが映画の不思議ですね」
篠崎「『クリーピー』は、美術の安宅紀史さんのセットで、黒沢さんが幸せそうに、“ここで厭なことが起きるんです”と(一同笑)。西島さんもニコニコ。和やかな現場だから和やかな映画になるわけじゃなくて、独特なものが残る」
【その他の発言】
『岸辺の旅』(2015)につづく黒沢監督の新作『クリーピー』は、9月初旬にクランク・アップ。
黒沢「『クリーピー』は原作があるもので、変えたところもありますけど、香川照之さんが出ていらっしゃるところもあって、『蛇の道』っぽくなりそうですね。(完成は)来年1月くらいかな」
黒沢監督は翌朝にパリへ発つということだが、特集上映の後半のトークにまた来られる予定だという。そのときは黒沢・篠崎両氏と青山真治監督が登壇の予定だという。
黒沢「青山とふたりで喋ると、ぼくが説教しそうだな(一同笑)」
黒沢監督不在の間のトークは、篠崎氏と俳優の柄本佑氏が登場予定。
篠崎「柄本明さん、柄本佑さん、安藤サクラさんと、柄本ファミリーとは仕事してますね」
黒沢「柄本時生さんとはまだですけどね。お姉さんには『リアル』(2013)の制作部についてもらいました。
柄本佑さんは、小さいころにおばあさんに連れられて、『悪魔のいけにえ』(1974)を見たとか(一同笑)」
篠崎「佑さんの黒沢清論が聴けそうですね。柄本明さんも、今度のクローネンバーグの新作はいいからすぐ見に行けとか、電話してきます(笑)」