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篠崎誠 × 黒沢清 トークショー レポート・『共想』(2)

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【『共想』の撮影現場(2)】

黒沢「(『共想』〈2018〉)2回同じ場所でインタビューされて、後ろは白いがらんとした空間で、それが何かを表現しているようにも見える。不穏な感じもあって、単に喋ってるだけとは言え、工夫されてるなと。

 『SHARING』(2014)もそうですけど、近代的で無機質な廊下や階段。ああいうのを使う名人になってきてるよね(笑)。ぼくは、趣きのある廃墟ならば照明やカメラアングルとかをいろいろ考えられるけど、無機質なところはどう撮っていいのかなかなか判らない」

篠崎立教大学の新座キャンパスなんですけど13年くらい通ってますので(篠崎氏は立教大学映像身体学科教授を務める)。13年かけてロケハンしてるような。11月の午後3時はこんな光だとか、なんとなく。照明は足してないんです。時間帯を狙って撮る。商業映画は時間の制約がありますので、ワンカットのために光を待ちますみたいなことは当然できない。この作品ではやりました。

 フォーレのレクイエムでふたりがすれ違うシーンは、ワンシーンワンカットで撮ったんですよ。映画の中ではモンタージュされてしまってるんですけど。

 商業映画ではお金があれば赤い服を着た人が3人いてうまくすれ違えばいいんですが、お金がないので柗下(柗下仁美)さんや矢崎(矢崎初音)さんに走ってもらって。同じ方がカメラの前を走って、向こう側から息を整えて出てきてすれ違うとか。やったにもかかわらずモンタージュしてるから、あの努力は何だったのかと(笑)。最初に3040分のパイロットフィルムみたいなのを撮って、それではワンカットだったんですが、追加撮影しました。

 明かりがいっぱいあるシーンは、俳優の唐橋充さんの展示会です。彼は画家でもあって、3.11の翌年に波の絵とかがあって、もともと福島の人です。3年ぶりくらいに展示会をやるということで、お客さんの邪魔にならないように撮らせてもらって、それがクランクイン。どこで使うかを決めないうちに撮っちゃって、フォーレのレクイエムのシーンに落とし込もう。回想なのか夢想してるのか判らないけど、そういう形で入れると編集の段階で決めていきました」

黒沢「どう使うか判らないけど撮ったと言うけど、相当精密に撮ってるよね。

 ステディカムというか、手持ちがぶれない装置で撮ってるのは判るんだけど、大抵前後はいいけど横移動が難しいよね。横で手持ちだねってばれる。でも横移動もすごく綺麗で、レールを引いたみたいかのように。横がスムーズにいくってのはすごい」

篠崎「カメラマンの柳田(柳田智哉)くんが20歳で撮ったんです。『SHARING』を見てくれて、ぼくだったらもっとうまくステディカム動かせますって啖呵を切られまして(笑)。ステディカムが大好きな男で、重いのを背負ってやってます。ぼくは人のお芝居はほとんどテイクワンなんですが、演劇の先生と話すシーンでもテストもなくワンカットです。ただすれ違うシーンとかは34日かけてます。撮影全体としては2週間もかかってないんですが、歩くシーンは4日くらいかかった。細かいタイミングとか、カメラマンが本当に頑張ってくれて。他の部分は俳優に任せていますが」

黒沢「衣装も素晴らしいですね。緑の服とか赤い服。最後に丘の上で会うところは、ひとりは黒いコートと山吹色のセーター。もうひとりは山吹色のコートと黒い服。反転したような衣装で、凝ってるね」

篠崎「自前で何種類か持ってきてもらいました。柗下さんはおっしゃらないけど、もしかして購入されたのかな

 2017年の2月か3月ごろに撮って、翌年につないでみたんですね。それで意見を聴いたりしたら、ふたりの関係性が判らないと言われて、片方は死んでるんですか?とか(笑)。食堂のシーンだけ、翌年に追加撮影しました。食堂のシーンと舞台の稽古しているところです。年をまたいで撮りました」

黒沢「言われてみると、食堂のところはちょっと顔つきが違う感じがしましたね」

篠崎「設定としてダークなことを矢崎さんが言ってるバージョンもあって、エレベーターに閉じ込められて前のビルでは同じ形をした人間がぺたっと貼りついてるとか。そこは映画の後半でちょっと使ってますけど。柗下さんの演じる離人症の友人とつき合ってて、症状が矢崎さんに転移したわけではないけど、共有に近いものがあるみたいな。ただやりすぎだと思って編集で落としました」

黒沢「映画の中には、エレベーターで何かを見るという気味が悪いシーンがありますね」

篠崎「彼女たちの実体験ではないんですけど。たまこがガラスに手をついて、偶然湯気が出たんですよ。寒かったんで、温度差で(笑)。リハーサルで出たんで、ガラスを綺麗に磨いてピンポイントでここしか湯気が出ませんと。切り返しでよしみの影が映るシーンも撮ったんですが、やりすぎだと編集で落としました」

黒沢「やりすぎだとカットしたシーンは、目指す方向と違うからですか」

篠崎「方向というのはないんですが、編集していて全体を見ていると、そこに引っかかって何かが薄らいじゃうとやめとこうかと。緻密な計算はなく直感です。ただし抑制されたものだけなのは厭なんですが」

黒沢「それを含めて、他に類を見ないバランスの作品ですね」

篠崎「最後の最後まで迷って編集を直したりして、揺るぎない確信があったわけでないですが」(つづく 

黒沢清の恐怖の映画史

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