私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

岡田有希子とかしぶち哲郎

 昨年12月、ムーンライダーズのボーカル・ドラマーとして知られる、かしぶち哲郎氏が世を去った。

 「リラのホテル」などの素晴らしさは改めて本欄で言及するまでもないだろう。

 筆者は、かしぶち作品というと歌手の故・岡田有希子に提供した楽曲が思い出される。

 岡田は生前に4枚のオリジナルアルバムをリリースしていて、驚くほど豪華な作家陣が楽曲を提供。どれも聴きごたえのある出来映えである。そのうちの3枚にかしぶち哲郎は参画。特に最後の「ヴィーナス誕生」には3曲を作詞・作曲したほか、全曲の編曲を担当している。

 筆者は、岡田が活躍していた時期にはまだ幼かったので、後年に近所のCDショップにて購入した中古CDで親しんだ(ネットの中古販売でも手に入るがやはりお店のほうが安価である)。

 1 stアルバム「シンデレラ」(1984)には、まだかしぶちは関わっていない。竹内まりや康珍化などが作詞・作曲を手がけている。同年のデビューシングル「ファーストデイト」も収録。 

 1985年には2ndアルバム「FAIRY」、3rdアルバム「十月の人魚」の2枚を発表。松任谷正隆尾崎亜美馬飼野康二財津和夫小室哲哉などの面々が参加。

 「FAIRY」に収録されたかしぶち作品「森のフェアリー」「ポップ・アップ・リセエンヌ」は愛すべき佳曲である。個人的な好みになってしまうけれども、特に「ポップ・アップ」は軽やかで素晴らしい。

 「十月の人魚」では、かしぶちは「Bien」を作詞・作曲。 

 198512月発売のベストアルバム「贈りものⅡ」」には、その2か月前のシングル「Love Fai」が収録された。「Love Fair」はかしぶちが初めて手がけた岡田のシングル発売曲である。 

 19861月、シングル「くちびるNetwork」がオリコン1位のヒット。かしぶちが編曲している。同年3月発売の4thアルバム「ヴィーナス誕生」では、先述の通り、かしぶちが全曲の編曲を担当(「くちびるNetwork」も収録)。このアルバムはとりわけ完成度が高く、特にかしぶちの作詞・作曲・編曲による「ジュピター」はディスコ調の軽快な曲で傑出している。

 19865月発売予定でシングル「花のイマージュ」(かしぶち哲郎作詞・作曲・編曲)の制作が進められていた。だが発売1か月前に岡田が逝去。「花のイマージュ」のお蔵入りが決まった(1999年にようやくベスト盤に収録)。

 「花のイマージュ」は力強いイントロに心をこじ開けられて鷲掴みにされるような力作で、シングルとして発売されていたら、岡田の人気もかしぶちの声価もさらに高まっていたと思われる。彼にとって発売中止はさぞショックだったことだろう。

 2002年、全CDとDVDを収録した「贈りものⅢ」が発売。筆者は後でそれを知るが(発売当時は全く無知だったゆえ)そのころには法外な値段に高騰していてとても買えたものではなく残念だった。けれどもありがたいことに2010年に「贈りものⅢ」は再発売される。この再発売バージョンは、現在も入手できる。 

 見事な歌唱力を持ちながら夭折した歌手と、おそらく彼女に刺激されて素晴らしい仕事を遺した天才音楽家は、きっと永遠に不滅であろう。