私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

原恵一 × 安藤真裕 トークショー レポート・『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』(2)

【『暗黒タマタマ大追跡』】

 そして第5作『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』(1997)にて、原恵一氏は監督に就任。それまで『エスパー魔美 星空のダンシングドール』(1988)、『ドラミちゃん アララ少年山賊団!』(1991)など中篇作品の監督を務めていたが100分近い長編作品はキャリア初。 

 

「『暗黒タマタマ大追跡』までの4本はファンタジー色が強かった。だから違うものを持ってこようと。現実的な舞台でロードムービーをやろうと思ったのがきっかけです。

 監督の仕事にはストーリー全体を見るっていうのと、子どもが飽きないようにギャグを入れてくっていうのがある。本郷(本郷みつる)監督の下で(演出スタッフとして)やっていたときとの違いはそれですね。

 本郷さんの4本あっての作品で違う方向へ行こうとは思っていたけど、つくっていて空回り感がありました。慣れてないから全体を見られていなくて、出来上がって自分で呆れました(笑)」

安藤「でもいびつな映画だけど原さんのエキスが出ているので好きですね。参加した甲斐があった」

「いまは『暗黒タマタマ』って大好きな作品です。でも当時はやっちまったなって(笑)。安藤さんと(設定デザイン・原画の)湯浅政明さんは面白いって言ってくれたんですけどね。

 (挿入歌は)コンテを書いてるときに、ああここにこの曲が流れたらなって思って実行してしまったと(笑)。三波春夫のシーンは安藤さんに「いつまでやってんだ」って呆れられたんですけど」

安藤「興行(成績)が微妙に下がっていって、毎年打ち上げではこれでラストかなって言ってました。(この『暗黒タマタマ』が)ラストしんちゃんかなと思ってて、まさかその後15年もつづくとは(笑)。

 いつもは2月くらいに入るけど少し早く成人の日くらいに始めた。100カットくらい入ったので1本の映画の中の担当分としてはMAXです。しんちゃんのことだけ考えて、これがラストと思っていたので(笑)悔いのないようにと」

「青森から東京へどうやって出て来るか。尺が足りなくて、結局あっという間に出てくることにして(原画の)末吉裕一郎さんに好きに描いてくださいとお願いしました。末吉さんにとっては、転機だったみたいですね」

 

 アクションシーンは、テレビの『しんちゃん』のイメージで見ると驚くほどの迫力。

 

安藤「演出家によっては殴り合うからおまかせみたいな人もいるけど、原さんはアクションの殺陣も細かく考えてくれる。演出家があれだけ考えてくれるから、やりがいがありました」

「おれも意地になってて、ろくに考えない監督が多いと思っていて。当時はプロレスとか格闘技をよく見ていたので。(完成作品では)おれが思っていた以上に(劇中で若い女性を)思いっきり叩き付けてて(笑)。

 銃はベレッタってのを調べて。キャラデザの原勝徳さんが(銃が)好きだったんですよ」 

 おねえキャラの三兄弟などのゲストキャラや舞台設定にも、こだわりがある。

 

「珠由良七人衆は名前も見た目も『七人の侍』(1954)ですね。いつ思いついたのか。全然許可は取ってない、同じ東宝だからいいかなって(笑)。このころは東宝の人から感想が来なかった。

 (クライマックスの)お台場のあのへんの景色が好きだったんですね。『エスパー魔美』(1988)のころは荒涼としてたんだけど『暗黒タマタマ』のときは開発が始まってて、ビルがだんだん建っていって、近未来的な街でいいなって」

安藤「以前原さんと食事したときに聞いた「あれが好きだ」って話が、みんな入ってるなーって思いましたね。「旅したいな」とか(笑)」

 

 原作の故・臼井義人氏が劇中に何の脈絡もなく登場(声も担当)。まずカラオケで唄うシーンで顔を見せた後、後半ではお台場でのクライマックス直前に出てきて殴り倒される。臼井氏はこれ以後のシリーズの2本にも出演し、毎回殴られている。

 

「原作者に出てもらうっていう予定はあったけど、カラオケは予定どおりで、お台場で殴られるのはコンテで突然思いついた(笑)。

 テレビシリーズをつくっていても尺が足りなくなりがちでした。初めて中篇(映画)をやったときも、同じことになった。『しんちゃん』は90分だけど、同じことで。長くなればなるほど好きにできるかと思ったら、やっぱりカットしなきゃいけなくなる。

 『河童のクゥと夏休み』(2007)では180分と思っていて(笑)制作委員会とぼくとでせめぎあいがありました」

【『暗黒タマタマ』以後のしんちゃん (1)】

 原監督は、第5作『暗黒タマタマ』から第10作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(2002)まで脚本・監督を務めた。安藤氏は第8作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』(2000)まで原画を担当。

 

「第6作『クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』(1998)では余裕が出てきて、気楽に愉しくつくれました。前作はドメスティックな内容でしたから、今回は海外ロケで舞台も派手にしようと。(ゲストキャラは)ミシェル・ヨーのイメージです。

 安藤さんのパンチのシーンは本当に痛そう。あの(『しんちゃん』の)絵で重量感を出せる人はいないです。アニメーターとしては超A級。いちばん好きなひとりですね」

安藤「このときは(ミシェル・ヨーの)『ポリス・ストーリー3』(1982)がいいんだよーって言われましたね(笑)」(つづく)