大河ドラマ『独眼竜政宗』(1987)や『八代将軍吉宗』(1995)、『葵 徳川三代』(2000)などで知られる脚本家・ジェームス三木。それらヒット作の他に多重人格を扱った傑作サスペンス『存在の深き眠り』(1996)や日本国憲法成立を熱く描いた『憲法はまだか』(1996)など多数の秀作を送り出してきた巨匠で、近年もテレビ『あさきゆめみし 八百屋お七異聞』(2013)や実録小説『渡されたバトン』(新日本出版社)など精力的に創作をつづけている。
その三木氏の自伝エッセイ『片道の人生』(新日本出版社)が刊行され、2月末に出版記念の講演会が行われた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
- 作者: ジェームス三木
- 出版社/メーカー: 新日本出版社
- 発売日: 2016/11/13
- メディア: 単行本
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思ったよりみなさん、お若いですね。私はもう80過ぎましたので、客席がお花畑のように見えます。あ、ところどころにドライフラワー(笑)。人のこと、言えないですが。
これは遺言みたいなエッセイ集で、お買い上げいただきましたようで、ありがとうございます。
MRIで検査してもらったんですけど、特に悪いところはなくて。1日だけ検査入院して、天皇陛下の生前退位でなく生前退院(一同笑)。
私はときどき江守徹に似てると言われて、鹿児島の空港で奥さんが色紙持って来て、さらさらとサインしたら「あら、江守さんじゃないんですか」って。江守徹にそう言ったらむっとされて「あなたは西田敏行に似ていますよ」(一同笑)。こっちもむっとして、江守徹には石田三成とか吉良上野介とか悪い役ばっかりやらせて。あの人はとにかくうまいから、どんな役やってもうまくて、こっちは負けたような(笑)。近ごろは綾小路きみまろにも似てるって言われます。
80過ぎて、記憶力が…。家内も栗ごはんつくってくれて、でも栗入れるのを忘れてたと(一同笑)。ただのごはんで、死んでお詫びすると言ってましたけど、まだ生きてます(笑)。
満州の奉天というところで生まれまして、いまは瀋陽ですね。小学4年生で戦争が終わって、当時は国民学校って言いましたけど、満州から一文無しで追い出されて大阪に引き上げてきまして。とにかく日本中が貧乏でえらい目に遭いまして。
脚本を書いて、もう何年になりますかね。30過ぎてからで、もう50年以上。最近は、テレビ局でいっしょにやってた連中が歳をとって退職していないんですね。若い連中から煙たがられて、(かつてはテレビの仕事が多かったが)いまでは舞台と映画とテレビですね。四国の松山に“坊っちゃん劇場”ってできまして、年間を通して1本の舞台をやっています。他に大阪の新歌舞伎座とか、この後、今年は俳優座劇場でやることになってまして。いろいろ億劫ですが、芝居に関しては歳をとって判ることが結構あると、何となく感じてまして。
ドラマという語はギリシャ語で、私の勝手な解釈ですけど、ドラマ(drama)とジレンマ(dilemma)のスペルが似ていて、ジレンマのことがドラマ。
芝居というのは2通りあって、ひとつは敵と戦って勝つか負けるか。闘争本能です。もうひとつは、愛が実るかどうか。好きな女性といっしょになれるか、ふられるか。恋愛して結婚して、子ども産んで、これは性欲です。勝ち負けは食欲、食糧を争う。他の動物は二大本能しかない。人間にはもうひとつ第三極があって、人間がつくりあげたのは、それをどうやって制御するかで、人間だけにある。ドラマというのは争いと愛の問題で、それをどうコントロールするか。三角形がドラマの根本で、あらゆる人が三角形の中にいる。どんな三角形も180度で、でも人によって少しずつ形が違う。そこのところをどう書いていくか。
いまの世の中を見ていますと、トランプのこととか、三角形が傾いてるなと。みなさんもそれぞれ三角形をお持ちでしょう。宗教、政治、ビジネス、いろんな分野で見えてくるのが面白い。
ただ俳優さんの台詞でも嘘だろって場合もある。国会でも人は嘘をつく。正義というのは両方にある。国家対国家でも夫婦でも両方にあって、片っぽが間違ってるということはない。テレビを見ても嘘だ、ごまかしてるっていうのがある。
国会では「AはBであってもいいと思っているきょうこのごろ」ってばかばかしい(笑)。昔はもうちょっとスパッと言ったと思います。アナウンサーが変なこと言うこともある。「マグロの値段がうなぎのぼり」とか「押しも押されもせぬ横綱」とか。押したり引いたりするのが横綱ですよ(一同笑)。
言葉そのものが変わることもある。人間同士の会話は、25パーセントくらいしか伝わってないと思ったほうがいい。文章にしても、名文でも60パーセントだと思います。100パーセント相手に伝わることはないと考えたほうがいい。(つづく)
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