私の中の見えない炎

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ジェームス三木 × 井土紀州 トークショー レポート・『さらば夏の光よ』(2)

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【『さらば夏の光よ』について(2)】

三木ロッテリアのシーンはお願いして撮らせてもらったんでしょうけど、ロッテリアがよく許しましたね(一同笑)」

井土「素晴らしいですね。社員の店長がアルバイトの娘をレイプしようとして(一同笑)。アルバイトの奴はとんでもない不良だし。すごいですよ、ロッテリアは」

三木「私は高校中退して俳優座の養成所に通ってたころ、御徒町のキャバレーみたいなとこでバイトしたことがあって。いろんな思いをしました。横浜のナイトクラブの歌手もしましたけど。人にこき使われるつらさ、そういうのがちょっとある(反映されている)かなと思いますね。

 私はこれ書いたとき40歳ですね。20代から30代にかけて歌手だったですから、ジェームス三木って名前は歌手の芸名なんですね。脚本家にしては変な名前だと思われたでしょうが。映画脚本としては10本目だと思います。ばりばりやり始めたころかな。

 30代前半にシナリオコンクールで1位になって。野村芳太郎監督が私の師匠です。山根成之っていう今回の監督、なつかしい人ですけどこの人は野村監督の助監督。山根成之は脚本を1字も変えていない。珍しいんですよ。監督はいじくり回したり、すごいんですけど、ちゃんと撮ってくれて。この後も(映画を)2本やりましたけど完璧に撮って、いまでも感謝しております。亡くなりましたけど。

 野村監督は、映画というのは力学・数学だと。起承転結がなければいけない。ビルマ作戦の戦車隊の隊長で、慶応大学ではサッカーの選手だった人です。慎重で数学的に考える。私は数学できなかったら困って、書いて行ったら「3シーンは使えるね」 。また書いたら「8シーンは使える」。何度も書いて「やっぱり全部ダメだ」。そういうことがつづいた後でした。舞台もテレビもまだ書いたことのない時代で、なつかしいですね」

井土ジェームス三木さんっていうと『澪つくし』(1985)や『独眼竜政宗』(1987)といったNHKの大衆的なヒット作の印象があります」

三木「このころNHKの注文は全然なくて、NHKの最初は1980年ごろ。民放から少しずつ声がかかってきた、その以前の作品ですね。

 見ててこんなにも忘れるものかと(一同笑)。いい線行ってるとかシャカリキとか、当時の青少年の流行語もなつかしく感じました」

井土「ぼくはこの映画好きで、89分でこの密度はすごい。いまの映画は2時間半くらいですが当時のジェームス三木さんの筆力、論理的なシナリオ、無駄のない山根監督の演出。プログラムピクチャーの充実感を感じます」

三木「全体のストーリーは、これでよく郷ひろみのプロダクションがOKしたなと思いますが」

井土「この時代のトップアイドルを徹底してバカに描く(一同笑)。最後はぐうの音も出ないくらい突き放して終わりますね」

三木「何でこんなになっちゃったんでしょうね」

 三木氏と山根監督は、映画『パーマネント・ブルー 真夏の恋』(1976)や『ダブル・クラッチ』(1978)、テレビ『ブラック・ジャック』(1981)などでも組んでいる。

 

井土「『ダブル・クラッチ』は郷ひろみ松坂慶子です」

三木「『ダブル・クラッチ』は五木寛之さんの原作で、なんとかじゃなんとかじゃって書いたら後で五木さんに文句言われまして。あれは横浜の方言ですって言って納得してもらいました」

井土「『ダブル・クラッチ』のシナリオが載った「月刊シナリオ」では、ジェームスさんが「シナリオ数学論」を書かれています」

三木「全然数学できなかったけど野村監督の影響ですね(笑)」

井土「約分とか因数分解というふうにシナリオのつくり方を数式化して書かれています。ぼくには新鮮でした。明快で論理的」

三木「それは映画についてですね。テレビドラマとはまた違って。私はテレビで気に入らないのは、説明が多いこと。朝ドラも大河ドラマもナレーションで説明しちゃう」

井土「記事でテレビドラマ批判もされていますよ」

三木「テレビは何千万の人が見る。それぞれ違う見方をするように、台詞言った後に2〜3秒でいいから意味を考える時間があるといいと思うんだけど。ナレーションが入っちゃう。

 映画には映画のよさがあって、大きく映る。テレビは人間の顔が本物より小さく映る。韓国ドラマみたいにアップにしたほうがいいかな。演劇はごらんになる方のお顔が俳優から見える。毎日直すことができる。それぞれに違うんでいろいろ考えて今日に至っています」

井土「記事では、手前に物置いてナメるの(撮り方)はやめたほうがいいと」

三木「テレビだと背景ばっかり映っちゃったり。『西郷どん』(2018)を見てると、桜島ばっかり映る(笑)。いまでも悩みながら見てます。

 脚本を書きたい方がいらっしゃるでしょうから、この中から優秀な新しい脚本家が出てこない方を望んでいますが(一同笑)」(つづく)