私の中の見えない炎

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寺田農 インタビュー(2011)・『仮面ライダーW』(1)

 テレビ『仮面ライダーW』(2009)にて悪のボス・園咲琉兵衛を演じた寺田農。その怪人体のフィギュアが発売されたのを記念して、2011年に寺田のインタビューが石森プロのサイトに掲載された。寺田氏は2024年3月に逝去したので、追悼として以下に引用したい。

 

 園咲琉兵衛の役づくりについて

 僕はあまり事前に準備するタイプではないんです。もちろん作品全体のコンセプトや、どういう方向に行きたいのかな、ということはプロデューサーや監督とお話しさせていただきます。要は、いくらプランニングを出しても、「やってみなきゃわかんない」からなんです。なによりプロデューサーのはぐらかし方がうまかったんです。やっていく内に、翔太郎(引用者註:桐山漣かフィリップ(引用者註:菅田将暉のどちらかが俺の息子なんじゃないの? とか、カミさんもどっかにいるんだろう? なんて疑問が沸いてきても、「さぁ、どうですかね?」なんて知らない振りを決め込むしね(笑)。それがあんまり早くわかっちゃうとつまらないし。演じる方もね、その方が演技にふくらみが出るんです。やっぱり未知の部分がないとね。登場人物たちは何も知らないはずですからね。

 『仮面ライダー』はこれだけ長い歴史のある作品ですが、ドラマというのは真の主役がいて、その敵役が面白くないと成立しないんです。それは東映の時代劇でも同じことで、月形龍之介さんといったような綺羅星のごとくいい役者がいました。そうした敵役がいたからこそ片岡千恵蔵さんや市川右太衛門さんといった両御大も活きるし、敵役というのはドラマのシチュエーション的にもの凄く大事な存在なんです。

 

 初めて主演の2人を見た印象は?

 東京国際フォーラムで初めて製作発表を行ったとき(2009年6月29日)も、主演の2人を相手に「かかってこい!」という意気込みを語りました。こちらが大きければ正義の味方もジャンプアップしていくわけだろうし、こちらがショボくれていたらそうした「階段」になれないじゃない。大敵をやっつけたときにこそ観客から拍手が起こるわけでね。どうでもいいような小悪党がやられたところでそんなのはどうでもいいんだから(笑)。だから敵としての大きさやスケールを、自分の中ではいちばんに感じていました。

 

 園咲ファミリーについて

 うちの娘2人、それとミックも含めて頑張ってましたし、それから家に来る婿……ダメ婿がいるじゃない(笑)、霧彦や井坂先生や、加頭やら、彼らもみんなキャラクターがはっきりしていて楽しかったね。私は園咲ファミリーというのはホームドラマだと思っているんです。仮面ライダーW側が探偵ドラマで、ある種のハードボイルドでいくなら、こちらは『渡る世間は鬼ばかり』だと(笑)。アホ息子がいて「いい加減にしろ!」みたいなこともあるし、いがみ合いの姉妹喧嘩もあるし。お父さんとしては、上がダメだから下の子に賭けるしかない、とかね(笑)。やっててそれは、とてもわかりやすいですよ。彼女たちもとても良かったしね。ホームドラマですから琉兵衛も、変身しても家長というのかな、そうした象徴だという感じは凄くしましたね。こうしたことはクランクインするまでは全部はわからないし、逆に言うと1年間のドラマだからこそ作っていける部分があるわけです。実際4本ほど撮ったところで家族も含めて、何か全体像が見えてきたなという感じがしました。ただ、1年間を終えたところでフィリップとは深い関わりがありましたけれど、翔太郎とはやり合う回数も少なかったので、もっとからんでみたかったという気はしましたね。

 

 いちばん手ごわかったキャスト!?

 からみが多かったといえばミックですけど、おとなしすぎてなにもしない猫で、もう重いわ暑いわで大変でした。一回テストをやるたびに毛が抜けて、そのつど衣装さんがコロコロで取ってくれるんだけど大変でした。だから僕はもっと敏捷で短毛で軽い猫に変えようって訴えたんですが、途中でようやくぬいぐるみができて、テストやロングはそのぬいぐるみで大丈夫になりました。おとなしいけどずっと寝てばかりいるような猫で、それなのにシナリオには「ニコッと笑う」だとか、「シャーと怒る」なんてことが気軽に書いてあるんだよ(笑)。それでもミックも後半だんだんと演技に目覚めてきて、いろいろ芸をするようになってきたんです。スプーンにキスをする独特の給餌方法に反応するカットも、ようやくテイク7ぐらいでビシッと決まって。昔の黒澤組なら、あれを一週間でもやってただろうね(笑)。

 

 父・琉兵衛として

 最後も結局ああいう形でホンを作っていただいて、ある種さわやかな終わり方ができて驚きました。火事の中で一人狂ったように踊っていき、それでフィリップに全てを託してもう一回再登場するというのは、なかなか悪役らしからぬ夢のあるいい終わり方だったと思います。これは今の『仮面ライダー』の視聴者層が多岐に渡ることで、メインターゲットの幼児から、そのお母さん、お父さん。それから僕が大学で教えているような学生たちも見ている、それから会社員も見ている。そうした幅広い層に支持されているから、単純に「悪だ」「正義だ」と色分けできないぐらいに複雑でないと、今の子って満足しないんです。だから悪は悪なんだけど、ある意味で常にお父様って部分がないといけないのかなと思います。

 だから琉兵衛も普通の親父……というほど園咲家は庶民的ではないですが、あの年代の娘が2人いたらどうなっちゃうんだろう、という一面も見せます。長女はこんな男とつき合っているけどそれでいいのかとか、下はテレビ見てキャーキャー騒いでるばかりみたいなパッパラパーで本当にいいのかとか(笑)。きっと見ているお茶の間では、園咲家の人間はリアルなんだと思います。だから、変身して戦うといったような絵空事の爽快感がありながら、そのベースになっているのはとても日常的な世界観で、それがいいんじゃないでしょうかね。一度、食事中に冴子(引用者註:生井亜実と若菜(引用者註:飛鳥凛が言い争いをして、姉妹喧嘩の挙句に2人が変身しちゃうってシーンがあって、あれなんかいかにも『仮面ライダー』ならではの姉妹喧嘩シーンでとてもよかったね(笑)。つづく

 

 以上、石森プロのサイトより引用。