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高寺成紀 インタビュー “2000年のヒーローに”(2000)・『仮面ライダークウガ』(5)

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——怪人デザインについてはいかがですか。

 

高寺 あくまで“怪人”であって、“怪獣”にならないようにしようと思ってます。「仮面ライダー」初期の怪人ですが、なんであいつら、あんなに怖かったんだろうと考えると、ひとつは目が見えていたからというのもあるんですが、やはりしっかりと人のシルエットをしていたからだろうと。とにかく、顔は人の顔の大きさ、全体も人の体と同じバランスで。自分が「戦隊」シリーズをやっていたときは、デザインのモチーフとなる生物の個性というかキャラクター性を大いに増幅させて、例えば、クモだったら体から8本の足が大きく突き出しているとか、ハチだったら手の先が毒針で、腕が腹部になっているとかなるんですが、今回は、キャラクター性があっても、それを極力地味に抑えていく。イカだったら、確かになんとはなしにイカっぽいねとわかる、ほんのちょっとの部分で表現しようと。

 あとは、こういう(と、チュシャ猫のような大きな笑い顔をして)大ーきな口を作らないようにしようと。ゴキブリ男とかナマズギラーとか、こういう口にしてしまうと、知性を感じない。獣の口になってしまうんで、どっちかというと怪獣の口なんじゃないかと僕は思っているんです。個人的には、カビビンガとか、サイギャングとか、シオマネキングとか、キノコモルグの口。「仮面ライダー」の何がすごいって、怪人の口がなくてもあるように見えたところがすごいと思っているんです。それが怪獣の洗礼を受けた者にとっての、また別の、というか新たに体験させられた、かっこよさだったんじゃないかって。『クウガ』の怪人は1年終わってフィギュアをずらっと並べたときに、『スボーン』のフィギュアと同じようなかっこよさにしたいというイメージがあります。

 それに、企画の最初の段階から、怪人も頭が良くて、文化を背負っているということがあったので、装具やバンテージやアクセサリーなど、身につけものをしようと。あのふんどしみたいなものとか、あと、怪人と言えばベルトですね。

 

——ベルトもそうなんですが、最初の2体がクモとコウモリというのは当然…

 

高寺 そこはもちろんオマージュですよね。何でもいいんだったら、そこは「仮面ライダー」で行こうと。桜子さんの研究室のある大学も城南大学だし。

 

——バッタの怪人(ズ・バヅー・バ)まで出てきますが。

 

高寺 あれもそうですね。やはりバッタもいないと。じつはバヅーには双子の兄(ゴ・バダー・バ)がいたっていうのは、もう皆さんご存知ですよね。

 

——まさに、オープニングで謳っているとおり「ニュー・ヒーロー、ニュー・レジェンド」ということですね。それにしても、仮面ライダー世代のプロデューサーが、新しい仮面ライダーを作るというのは、感慨深いものがあります。

 

高寺 僕自身、ウルトラ世代であり、ライダー世代でもあるんですけれど、もし、仮面ライダー(の新シリーズ製作)の声がかかれば、自分がやりたいなと、と思っていたんです。じつは、10年ちょっと前、東映に入社してすぐにアシスタントプロデューサーでついたのが『仮面ライダーBLACK』だったんです。でもそのときは、「今なぜ仮面ライダーなんですか?」ということばかり言っていたんですよ。なんか、ルーティン化して時代に埋もれてしまう気がしたんです。今考えると、あれはあれでいいんだ、と思えるようにもなったんですが。各時代にくさびを打っておいて、「仮面ライダー」というタイトルのものがあるということは大事だったのかもしれませんが。今回の出演者でも、みのり役の葵(葵若菜)さんなんかは、『BLACK』を見ていた世代なんですね。だから、その時代その時代の仮面ライダーがいるということは、それはそれで美しいのかなとは思いましたけれど、当時の僕は、「うーん、違うんだけどなあ」と上司に言って怒られたりとか、そういう日々でした。

 

——最初についた現場が『仮面ライダーBLACK』だったというのは、因縁を感じさせますね。

 

高寺 じつは、『仮面ライダーBLACK RX』が終わったとき、今後の自分の役目は、「仮面ライダーをやりましょう」という声に対して、「もういいじゃないですか」と反対することだと思っていたんです。『BLACK』より『RX』のほうがむしろ東映の十八番なんですね。割り切った作り方で、別に仮面ライダーでなくてもいいじゃないかという内容ですよね。その後も、いったい誰のためになぜ作られているのか分からないヒーローが目の前で「仮面ライダー」の冠をつけて作られていくのは辛いなって思ったんです。単純に、その時代時代の子どもたちに必要とされているのは「新しい仮面ライダー」ではなくて「新しいヒーロー」でいいと思っているので、その新しいヒーローが「仮面ライダー」を名乗るのには何か必然性がないといけないのかなと。

 今回、その必然性は何だったのかというと、冒頭でお話ししたように、「仮面ライダー」を迎える時代が廻ってきたことだと思っています。これを僕自身が言うと、スゴク誤解を受けるのかもしれませんが、やはり僕のような「ライダー」を見て育った世代が「ライダー」を作る時代になったということでもあるんだと思います。そんな意味でも、巷のライダー熱を感じるに従って、ほんとうに勝手ながら、やっぱり新しいライダーは自分がやるしかないだろって。他のプロデューサーにやらせられるかって思いましたね(笑)。そんな想いから、いかに今の子どもたちが見ておもしろくて新しい「仮面ライダー」であるかが重要だったんです。二世代ヒーローとも言われますが、確かにお父さんである僕が僕の子どもたちに向けて作っている「仮面ライダー」と言えるかもしれません…。(2000年6月12日 東京大泉 東映テレビプロダクションにて)

以上 “SFオンライン41号”より引用。 

EPISODE 1 復活

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  • 発売日: 2015/08/27
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