私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

寺田農 インタビュー(2011)・『仮面ライダーW』(2)

 冴子なんて段々と落ちぶれて、街のホームレスになっていくんじゃないか、なんてことも実は親父としては心配なんだろうし、本当にあの家は悩みが絶えません(笑)。

 (引用者註:『仮面ライダーW』〈2009〉は)1年間続く現場ですからね、お嬢2人には僕もいろいろ言ったんです。いい女の条件とは背筋を伸ばしてひざを曲げず、大股でスッ、スッと歩き方がきれいなこと。これができてないときは、監督がOKを出していても、僕が「そんな汚い歩き方じゃダメ!」とリテイクを出しました。単発の現場ではこんなことは言わないですけれど、やはり1年間の現場ですし、園咲家は名門中の名門ですから。歩き方、食べ方の姿勢に品格がにじみ出ますから、かなり言いました。それこそ本物の父親並にね(笑)。

 

 その後の園咲ファミリー?

 最後の火事のシーン(引用者註:第46話「Kがもとめたもの/最後の晩餐」)はオープンセットで撮ったんですが、前も後ろも炎に包まれ、現場は本当に熱かったんです。あの時期、ゲリラ豪雨が発生していた頃で、その日に限ってピンポイントで大泉が大雨だったんです。2時間ほど待っても土砂降りで、「もう1時間待ってやまなければ来週」という状況になって待っていたら、1時間後にピタッと降り止んだんです。セットに火をつけたらもう、熱いなんてもんじゃなくて(笑)。でも、それだけの効果があったシーンになりました。

 だから、去年1年やらせていただいて、非常に楽しかったですね。もうひとつ家庭を持てたわけですから。若菜はあんなことでこの先やっていけるんだろうか、冴子はもう少し男を見る目を養ってほしいとか、それぞれどうなっていくのかその後の園咲ファミリーっていうのは見てみたいね。

 寺田さんにとってのテラー・ドーパントとは

 テラー・ドーパントを初めて見たとき、この巨大な威圧感のある頭部なんかも「あっ、いいな!」と思いました。大きさもあるし、それからひとつの風格もありますし、ひと目で "ドン(首領)" という感じがしましたしね。頭部の、インカ帝国のようなデザインも驚きましたけど、後にはずれて龍になって襲いかかるというのが面白かったです。園咲家の外観は東京国立博物館を使っていたんです。正面入り口の大理石の階段があるところに立たせると、このデザインがどれだけ映えることか。質感と存在感がないと、大理石のあんな場所だと生半可な造形だと負けちゃうから、作り手側もある種自分で自分の首を絞めているところがあるよね(笑)。

 実際に中に入った若者は大変だったみたいですけどね、重いし、それから暑いしね。この、カーテンみたいな布も大変なんですよ。ひとつだけしたお願い事は、動きをゆっくり大きくやってくれと言ったんです。彼がまたとても優秀で、僕がそばで言ったセリフに合わせて彼のセンスで動いてくれたんです。とても成功したんじゃないでしょうか。

 「仮面ライダー」の原作者でもある石ノ森章太郎作品の魅力とは

 石ノ森先生でまずなにがいいかというと、絵がバツグンにうまいということです。『サイボーグ009』なんかにしてもそうだけど、夢と希望の別世界に誘うためには、やはり絵が上手くないと。石ノ森先生は「萬画」ということを提唱されていましたけれど、メディアのひとつと考えていたわけですよね。今考えると確かに「まんが」って、どういった字を当てはめるかは難しい問題ですよね。「マンガ」や「漫画」は、昔の4コマみたいな作品ならよかったかもしれないけれど、『仮面ライダー』のように実写化されたりするとそれも違いますし。まさに "萬の画" ということであの字をお考えになったと思うけれど、これは的確ですね。

 ドラマでも映画でも、これほどコミックが原作になっているのは日本だけだと思います。コミックの実写作品って、普通のドラマの何倍も難しいんです。だから、コミックで3コマで表現されているものを、20、30カットと割って、コマの間を汲み取って掘り起こして立体化していかなければいけないと思います。クラシックでも、ベートーベンやブラームスなど、凄い人が残した作品は今でもきちんと通用するでしょう。石ノ森先生が生み出したベーシックなキャラクターとしての『仮面ライダー』を、そこからどうバージョンアップして現代に生かすかにチャレンジしても、確固たるものがあるから崩れることがないんだと思います。

 

 以上、石森プロのサイトより引用。