【『ウルトラマン』の想い出 (2)】
『ウルトラマン』(1966)での実相寺昭雄監督「空の贈り物」にはハヤタ(黒部進)がスプーンを掲げる伝説的なシーンがある。
古谷「スカイドンの下田のロケで、スプーンのつながりは言わなかったの?」
田中「あの回だけ私じゃないんです」
古谷「あれは誰?」
田中「ぺこちゃん(宍倉徳子)だった」
古谷「カレーライスを食べててスプーン置いてるのに、その後でスプーンで変身しようとする」
桜井「実相寺監督なんで、つながりなんて関係ない。スクリプターの人がどんなに言ってもダメ(一同笑)。こないだYouTubeで黒部さんにもつながってないって言ったけど」
田中「宍倉さんはちゃんと伝えたそうです。だけど「かまわない」って」
桜井「その後が野長瀬(野長瀬三摩地)組だったんだけど、野長瀬さんが「おれたちは真面目にやってらんないよ!」って怒ってた。意外と受けたものだから、余計にやってられなかったのかな(笑)。そういえば梶田(梶田興治)さんもモグラ怪獣の「甘い蜜の恐怖」(『ウルトラQ』〈1966〉)のときに「ぼくは東宝からオネストジョン(米軍の兵器のミニチュア)をやっとこさ借りて来たのに、出てきたのはモグラなんだよ!」」
稲垣「梶田監督はゴジラみたいなのをイメージして攻撃するロケットを借りたのに、モグラ怪獣かと」
桜井「せっかく借りて来たのにモグラ(笑)。モグラをやっつけるところに使ったのかな。何を言っても判らなくて把握できないから私がはけ口に」
小中「本編の監督と特撮とのイメージの落差は、実相寺監督もがっかりしたと公言されていますね」
桜井「実相寺さんは中庭あたりで高野(高野宏一)さんと喧嘩してたね。どうして喧嘩してたのって晩年に訊いたら「喧嘩じゃないよ。言い合い」。それ喧嘩じゃないの(笑)。シーボーズの駄々っ子みたいな振りを実相寺さんは(納得していなかった)。それで喧嘩してたらしい。実相寺さんはへへへって感じだったけど高野さんはマジ切れ。中庭にいたみんなすーっと部屋に入って行って。高野さんは必死ですよ。誰も質問できる人はいないし。よかれと思ってやったのに、文句言われる覚えはない。どっちもどっちだね(笑)。でも子どもたちに人気だから、実相寺さんは晩年には「それはそれでいいね!」って言ってた」
田中「高野さんも飯島監督も誰もやってなかったことをやったわけだから『ウルトラマン』では本当に大変だったと思います。『ウルトラセブン』(1967)はああこうすればってのがあったけど」
稲垣「『マン』は初めの3本だけ特撮をやりました。『セブン』は全部本編。高野さんは悩んでましたよ。格闘が思いつかないみたいで「お前きのうプロレス見たか?」って言われたり、苦しんでましたね」
小中「怪獣同士の戦いは映画にあったけど、ウルトラマンのような人間体が怪獣に毎回戦うというのはないですね」
稲垣「(バリエーションは)なくなっていきますから悩んでましたね」
古谷「カメラマンが特技監督になったんだからそれは悩むよね。カメラを回してた人が監督に。的場(的場徹)さんがいなくなったからそうなっちゃった。順送りになって佐川(佐川和夫)さんとか清(鈴木清)さんとか稲垣さんとかは出世していい思い(笑)」
小中「上がいなくなったからということですね。的場さんは大映の人で、東宝みたいに怪獣が戦うというのはなかったですからね」
桜井「的場さんは英二(円谷英二)監督がお願いして来ていただいたらしいんですよ。何かがあっても的場さんに英二監督は言えない間柄だったらしいと、飯島監督がおっしゃってました」
小中「的場さんは技術者というイメージですね。東宝の映画では怪獣の戦いという人間芝居がありますけど、それ以外の特撮映画にはあまりない」
稲垣「それで言うと『ウルトラマン』は特殊で高野さんは技術者でカメラマンだったのに監督になっちゃった」
古谷「『ウルトラセブン』も高野さんが特技監督だよね。力をつけていったんだね」
小中「カメラマンから監督になったという意味でも円谷英二と共通していて、後継者ですね」
古谷「高野さんは後で専務になったんだよね」
桜井「私が円谷プロに戻ったときに満田(満田かずほ)さんと高野さんが専務で「えっ、高野さんが専務?」って驚いたら「そうそう、何にもせんむ」って。面白い人(笑)」
古谷「面白い人がいっぱいいたからつぶれそうになった(一同笑)」
古谷さんは「しゅわっち」とポーズ。
桜井「海外に宝田(宝田明)先輩と行ったときに、古谷さんが大きな声で「しゅわっち」って言うと人がみんなそっちへ。宝田さんが怒って「うるさいなきみは」(一同笑)」
最後に飯島監督夫人の矢代京子氏が登壇。
矢代「主人に「お前大丈夫か」って言われてるような気がするんですけれども、もうきょうは感激しまして。主人も黄泉の世界から喜んでいると思います。本当に心から御礼申し上げます(拍手)」