【登場人物たち (2)】
『PLAN 75』(2022)では、関連施設に勤める介護士役のステファニー・アリアン氏はフィリピン人。
早川「つい最近フィリピンの映画祭に行って、介護士のマリア役がフィリピン人の女優さんで彼女の国で初めて上映したんですね。いろんな国で上映して、唯一これは絶対にフィリピンで起こりえないと断言されました。家族とのつながりがものすごく強くて、親をどこかに預けるとかこういう制度とかはありえないと言い切られて気持ちよかったですね(笑)。もしひとり暮らしのお年寄りがいたらどうするのって訊いたら、その場にいたフィリピン人ふたりが考えこんじゃって、周りにそういう人がいないって言うんですよ。
(海外の反応で)印象的だったのは自分の国でこういうシステムが始まるとなったらものすごい反対が起きて大変なことになるだろうけど、映画の日本人はすんなり受け入れて従順にシステムに従っているようでとっても不思議で奇異に見える、それが日本人らしいと言われましたね」
【編集について】
編集はフランス人のアンヌ・クロッツ氏が担当。
早川「(編集がフランス人になったことによって)内容について変わったことはない気がするんですが、映画づくりの美学とかセンスとかが見られて収穫だったというか。クロッツさんにお願いしたいというのは私がリクエストしたことなんですけれども、今回の編集や仕上げをフランスでやるというのがもともと決まっていて、せっかくフランスでできるのであれば以前からいいなと思っていた編集の方がフランス人だったので、この方につなげていただけないかとお願いしたんですね。もともと私が好きなリズムを持っている方なので、彼女がこの映画に大きな貢献をしてくださったというか。たくさん助言を受けて、とにかく観客を信じていいんだと。説明しなくても判るからっていうので、説明的なカットや台詞を削ったりしました。観客を信じようというのを合い言葉のようにやってました。判らないところも判らなくていいんじゃないかと思っていて、現実に私たちが生きていても判らないことはいっぱいある。話していても人が本当に何を考えているのか判らない。映画の中だからすべてを明らかにして説明できるようにしなくてもいいんじゃないかなと。撮影が終わって2月の頭ぐらいから2か月強フランスに行って編集しました。長編映画の編集は初めてなんですけど、まっさらな状態で飛び込んで行って、向こうも快く受け入れてくれて、朝から晩まで映画のことを考えていられました。フランスっていろんな国との共同制作をやっていて、サウンドを仕上げているスタジオでも隣の部屋ではコロンビアの映画をつくっていて、こないだはインドネシアの映画をやったとか。国の垣根がなくて、フランスでは産業として成り立っているのがいいなって思いました」
【結末について】
早川「(主人公を)生かすか死なせるかで、絶対に死なせないというのはいちばん最初から思っていたんですね。当初の脚本は施設を出たことをほのめかすにとどめてあの後どうなったか判らないんですけれども、書き直しているうちにこの映画自体に希望の要素を入れたいと思って、ミチさんが自分の選択で生きることにしたと描かないといけないと。吸入器を外して彼女はこれからも生きることを選択したと書き加えました。最後の歌も息を切らしながら、途切れるような呼吸の中で声が聞こえてくる。彼女の息づかいを入れたかったですね。彼女の好きだった「林檎の木の下で」の歌詞の中にも夕陽が出てくるんですね。夕陽は沈むけどあしたも会いましょうという歌。夕陽を見ながら歌うことであしたも生きるぞという気持ちを表したかったというのがあります。
山奥の施設から歩いて来て、ぱっと開けた道に出て、ちょうど道路沿いにああいう景色が広がっていたという。目の前に夕陽があったら、その光を浴びて生きようと思うんじゃないかなと。いい所が見つかるか心配だったんですけど、制作部の方がいい場所を見つけて来てくださって」
最後にメッセージ。
早川「便利な世の中になっていって、効率の良さが優先される中で生産性をもとにものごとの良しあしを測る風潮が強くなっていますね。それに対する危機感もあってこの映画をつくったんですけれども。何かの役に立つとかと人の命の価値とをつなげて考えるべきではなくて、本人でなく周りがあなたは生きる価値があるとかないとかジャッジするものではないと思っています」