私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

三田佳子 × 村上佑二 × 木田幸紀 × 長沼修 × 鈴木嘉一 トークショー “制作者が読み解く市川森一の魅力” レポート・『山河燃ゆ』『花の乱』 (3)

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【『山河燃ゆ』(2)】

村上「『山河燃ゆ』(1984)は山崎豊子さんが取材された極めたリアルな原作(『二つの祖国』〈新潮文庫〉)で、太平洋戦争のときに日系2世は複雑で、アメリカで生まれてアメリカの教育を受けて民主主義を身につけて成長してきたと。日本と戦争が始まったときにつらい立場で、自分はアメリカンであったも親父は日本人という意識を持っている。ひりひりする問題を抱えてドラマがスタートするんですね。主人公(松本白鸚)の弟(西田敏行)が父母になびいて、日本にやって来ちゃう。彼は日本軍にとられて、一方で兄貴はアメリカ陸軍の通訳官。フィリピンで、兄弟で対決する構図になっちゃうわけですね。兄の撃った弾が弟を射貫いて重傷を負わせて、そのわだかまり終戦になってもつづく。和解するころには、兄は東京裁判の通訳。国と国とが戦う不合理、エゴイズムに翻訳しながら悩む。通訳として死刑と言い渡すんですが、言い渡す自分は何だということで、大河史上珍しく主人公が自死してしまう。東京裁判の法廷で、自分の頭を射貫いて死んでいく。戦争の矛盾を一身に背負ったんですが、仲直りした弟が表で、あそこで兄貴が裁判をやってるんだと兄のかつての恋人でいまは自分と結婚している女性と話してる。その見えざる内部で兄は死んでいくという皮肉なストーリーです」 

二つの祖国(一)(新潮文庫) (新潮文庫 や 5-45)

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村上「長年時代劇だった大河ドラマを現代劇にするというのは、内外ともショックでリスクもある。拒絶反応を起こす視聴者もいらっしゃるだろうし、やる方もどうすればいいのか迷うところもありました。やった意味はあったと思います。当時大河はアメリカでも放映されたんですが、日米関係に好ましくないということで放映されなかったんですね。テープがロサンゼルスの日系の集会でみな必死で見てたと。それで世論が変わった。一種の人種差別で、着の身着のまま強制収容所に入れられちゃったわけですから。世論を巻き起こして、1世たちへの賠償につながっていて、社会的な意味を持つことができたかな。

 ただ山崎さんと市川さんは水と油なんですね。かなりの衝突もあったんです。ふたりとも亡くなっちゃったんですが、間に入るのは大変でした(笑)。市川さんは若いときを膨らませて、それがだんだん崩れていくというふうにしたかった。ところがそれはダメだというのが山崎さんで、いろいろやりとりがあって中間を取った記憶があります」 

大河ドラマ 山河燃ゆ 完全版 壱 [DVD]

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【『花の乱』(1)】

 『花の乱』(1994)は日野富子三田佳子)を主人公に応仁の乱を描いた、とびきりの異色作。三田佳子氏は『いのち』(1986)につづく大河ドラマ主演だった。

 

三田「市川さんとは、まず市川さんが若いころに2時間ドラマを書かれて、私がヒロインで弟が橋幸夫さんだったのが最初です。歳いっしょなんです。同じ青春を過ごした仲なんですが、三田さんがぼくの作品をやるって興奮を持っていらして、帰りがけにお疲れさま!って追いかけてきてくださって、方向いっしょですから途中まで是非、私の車に乗りません?って、それが出会いだったんですね。それから親しくなって、だいぶ経って『花の乱』に出てくれと。その前に大河ドラマ『いのち』を命削ってやって、何年か経ったくらいのときでしたので、怖くて拒否したんです。NHKの偉い方も村上さん、黛さんもいらして、やらざるを得ない。NHKに勤めていた夫の高橋康夫さんも。子育ても大変なときでしたので、無理と言ったんですが押し切られて出てしまった。幽玄の世界に縁ができて、大変でした。2年後にガンになったんですが、お医者さんが“この進行状態を見ますと、2年前に何やってました?” え、2年前? 『花の乱』です。納得しました!(一同笑) 市川さんにガンになったのよって言ったら“ぼくの作品ですか。あれで、ぼくは三田さんをガンにしたか”と大したことなく言われて(一同笑)、それから何年も経って生きてるんです。普通死んでますね。市川さんは何で先に逝ったかと悔しさ、淋しさがありますけど、市川さんが私を生かしてくれたのかなというご縁も感じております」 

 市川 × 三田コンビは『鏡を眠らない』(1997)にも登板。演出は『花の乱』ではサブディレクターだった黛りんたろう。謎の鏡をめぐる、こちらも忘れ難い怪作である。

 

鈴木「ご病気から復帰されて『鏡は眠らない』に出られてますね」

三田「『鏡は眠らない』はガンが終わってふらふらしてたころです。演出は黛さんで、黛さんも幽玄の世界の方ですから。仲代達矢さんとごいっしょして。キリスト教の市川さんの求めていらした世界で、病後でふらふらなのに、竹下景子さんと同じように娼婦の役で色気も素っ気もない。ほんとにつらくて。鏡を背負って島原の山に登って、難しい台詞をいっぱい言って、また殺されそうになりました。黛さんが“背負いますから!”って言ってくれて背負われて、山のロケ地で撮りました。作者に同情とかはないですね。『花の乱』と『鏡は眠らない』でつくづく感じました。市川さん、そこにいるんでしょ? 私にとって大きな財産になってますので、ありがとうございます」(つづく) 

鏡は眠らない (市川森一シングルカット・コレクション)

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