舞台『ビビを見た!』(2019)では、目が見えなくなった人びとを演じる役者陣は、実際に目隠しされている。
濱田「パニック状態というのは松井さんの中に最初からあって、最初の顔合わせぐらいで、ほんとに役者の目を見えなくしたい、そういう情況に落とし込みたいと。変態ですよね(一同笑)」
松井「そうですね。変態なんですよ。負荷をかけて胃が痛いぐらいなんですけど、その状態がリアリティーを生む」
濱田「説明をされたときに、パニックで役者に右往左往してくれという指導をすることもできるけど、ほんとにリアルな情況をつくりたいんだなっていうのが判って。お芝居はちょっとこっぱずかしいのがあるイメージだったんですけど、それが松井さんに会ってがらっと変わって、やってみないと思いました」
松井「そのパニックの一方で、ビビとホタルが出会ってどうなっていくかという線もあるので、どう合体させていくのかというのも難しかったし。石橋さんはいま実際どう思っているのかなと」
石橋「あの目隠しをしている人たちとは別世界にいる感じがします。ここ(近く)まで来ても判らないそうなんですよ。ある意味リアルで、ビビは見られていないけど(目隠しをしていない)ホタルからは見られている。ほんとに孤独になる。異質と言うか」
松井「世界からはみ出している感じがありますね」
濱田「ビビだけが異世界にいて、ホタルとお母さんはリアルな存在で。赤い帽子の女とかネクタイの男の子は象徴なのかな。パニックのときにこういう発言する人いるよね、みたいな。そういう一般の象徴みたいな人とビビみたいな異世界の人たちとを、どうまとめるかというのは結構難題でした」
松井「異種格闘技ですね」
濱田「ビビは最初、かわいく考えてたんですけど、もっと虫みたいなイメージなんだよって言われて」
石橋「虫!? ずっと妖精のイメージで絵本を読んで、台本も読んでたのにショックです(笑)。絵本では髪の毛がすっごく長くて、最後は裸で緑」
濱田「フライヤーの撮影のときに初めて石橋さんにお会いして“全身緑タイツとかですか”って言われたんですが(笑)大丈夫だと思いますと。
難しかったですね。羽根があって触覚もあって、普通に考えちゃうとお遊戯会みたいになる。他のキャラクターとなじませて、違和感がありつつも世界観をつくるというので、ああいう感じに落ち着きましたけど。試作は何回かしました」
松井「(石橋さんの)ひざのところについてるのは、完全にアクションのためですから。いつでも転がっていいように」
石橋「稽古はひざがあざだらけで、日々あざが更新されていくので、緑色に染めてもらいました」
濱田「稽古を見て、しばらくこもってつくって、まだ戻ってみると、ああビビめっちゃ動いてるやん、衣装破れるかも(笑)。アンサンブルのみなさんもすっごく動くので、目隠しもされているからプロテクターも衣装の一部として使いましょうと取り入れて。違和感なかったです。でも虫だとしたら、プロテクターのある関節は…」
松井「虫っぽくていい」
石橋「あしたから虫の気分になっちゃう(笑)。私は妖精のつもりでやってますから」
松井「ぼくはどんどん虫の要素を足していく(笑)。攻防ですよね、演出家と俳優の。
今回集まったメンバーは原作の絵本に衝撃を受けて、それから関わっていただいてます。絵本の世界観をどう演劇に翻訳するかにチャレンジしているから、ビビやホタルのイメージとか、このシーンの情景はどうなってるのかなとかを最初から話すことができたし、アイディアもいろいろもらったし。ぼくの頭の中だけじゃつくれなかったかな」
濱田「舞台は初めてで、普段はこもって少人数でつくっているものですから、スタッフも舞台美術も照明も音楽も、みんなのアイディアが集まってこうなるんだというのが面白かったです」
松井「照明はフランス人のヨアン(ヨアン・ティヴォリ)さんで、フランス人だから日本人だからというのでなくて、独特です。シェイプの出し方とか繊細で見たこともない光。ヨアンはアイディアも大胆で、ずっと稽古にいて、いっしょにつくったという感じです。いつもと違う空気感でした。
この布も途中で出て来たアイディアで、格闘しましたね。石橋さんもこれを途中で噛んだりするんですが、どう信じているんですか(一同笑) 演出家として“ここ噛んでください”とか言ってるんですが」
石橋「そう言われるからやっています(笑)。おっきな人が出てきて、そもそもの存在は何なのかはみんな判らない。(布が)いろんな形や動きになるのはわくわくしました。どう想像してもいいじゃないですか、見ている側も演じる側も。難しいなとは思いますけど、自由です」
松井「途中で大きめのワカオを出しちゃったんですけど、布を動かして。でも、そんなにワカオちっちゃかったかという感じになっちゃって」
石橋「303メートルあるはずのに」
松井「1回稽古つけたんですが、夜中にこれ絶対違うと思って(一同笑)。次の日にこれ全部やめますと。スタッフがあわわわわと」
濱田「結構変わっていくんだなと。最初に決めて、それを繰り返し練習するのかなと思っていたので。贅沢なつくり方で面白いですね」
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松井「大海先生とは、この前書店でトークショーをやりました」
濱田「聞きに行きました(笑)。おしゃれで、つえついていらっしゃったけど、凝ったつえでした」
松井「以前リサイクルショップ“魔女”をやっていたそうなんですが、魔女って名前はなかなかリサイクルショップにつけないですね(笑)」
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