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大海赫 × 松井周 トークショー レポート・『ビビを見た!』(1)

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 大海赫の傑作童話『ビビを見た!』(復刊ドットコム)。伝説的・衝撃的な作品が刊行から45年を経て、神奈川芸術劇場にて舞台化されている。

 大海赫と脚本・演出の松井周の両氏によるトークショーが横浜で行われた。筆者は飲み会で大海先生とは何度かお目にかかっているのだが、長く話を聞くのは初めてで、貴重な機会であった(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。 

ビビを見た! (fukkan.com)

ビビを見た! (fukkan.com)

大海「(お客が)こんなにいらっしゃるの。まいったなあ」

松井「『ビビを見た!』を舞台化するということで、去年でしたっけ? 大海先生に最初にお会いして」

大海「過去のことは全部忘れちゃう」

松井「どうぞ勝手にと(一同笑)背中を押していただいて。ぼくは大海先生の作品を小学3〜4年生ぐらいで読んで、衝撃を受けました。大海先生のご本はひと筋縄ではいかない。『メキメキえんぴつ』(復刊ドットコム)という作品で、怖くてすぐに押し入れの奥にしまったんです。でも少し経つと読みたくなって出す。そういう経験をして、大海先生が気になっていたんですが、復刊ドットコムから復刊されたときに改めて読み直して。『ビビを見た!』もすごく衝撃的で。世界の終わりみたいなときに、主人公の少年の目が7時間だけ見えるようになる。その間にビビと出会うんですが、周りの人の目は見えなくなって町中がパニックになる。ビビを追ってくる大きなものもいて。絵本なら教訓があって道徳的なものを想像するんですが、そうではなくて残酷に終わっていくんだけど、救いかもしれない。いろんな読み方ができる本で、いつか舞台にしたいと思ってたんですけど。大海先生の本は絵も文も完成された世界で、舞台化は難しいと思ってたんですが、今回KAAT(神奈川芸術劇場)の企画で実現しました」 

メキメキえんぴつ (fukkan.com)

メキメキえんぴつ (fukkan.com)

大海「子どものときから絵描くのが大好きでね、絵を描くのだけは最高得点。他は全部最低得点(一同笑)。学校でも絵は誰にも負けなくて、張り出されてた。

 小さいころ、新橋に第一ホテルっていうでっかいビルがあって、その前を馬が通るくらいで車が通らない。馬方や飴屋、金魚売りも通る。ぼくはその道路にマンガ描いてた。

 いまいくつだっけ? 88ぐらいじゃないかと思う。縁起がいい(一同笑)。

 童話書こうとも思って、それに絵をくっつけりゃいいや。説得力あるだろうと」

松井「内容も諷刺というか独特じゃないですか。それは最初からスタイルとしてあったんですか」

大海「もちろんそうですね。この世界に強烈な不満を持ってますから。世界を批判するようなことばっかり考えてましたから、いまだにそうです(笑)。不満でいっぱいですね。それを口にしたら、みんなにぶん殴られる(笑)」

松井「それを絵本にしようと。『メキメキえんぴつ』などは不満と言うより、結末におそろしさを感じたんですが。(大海先生が時計を見る)あ、まだ時間はあります(一同笑)。

 『メキメキえんぴつ』は小学生の子どもがメキメキえんぴつを手に入れて、これがあれば頭が良くなる。でもサボったり、えんぴつをかじったりしたら、えんぴつに仕返しされる。それで真面目に育つって終わり方だけど、すごく薄ら寒い」

大海「そりゃ風邪ひいてんじゃないの。もうちょっと体鍛えてくださいよ(一同笑)」

松井トークの前に“きょうぼく、いろいろ突っ走るから”って言われたんで。頑張ります(一同笑)」

大海「みなさんも頑張ってね。風邪ひくよ」

松井「 “ぼくもうこの世にいないから。死んでる”って言われて。どう解釈していいのかなと。大海先生は死もテーマとしてお持ちなんでしょうか」

大海「この世が嫌いだから、早くあの世に行きたい。あの世はもっと進んでるんじゃないかな。あの世のほうが過ごしやすい」

松井「それは見てきたことがあるんですか」

大海「(笑)この世が哀れだからね。日本人は特に哀れですね。もっとゆったり生活すればいいのにさ。こせこせしてるのよ。どうしたら給料上がるのかって顔してる。もっと落ち着いて(笑)」

松井「『ビビを見た!』は1974年の作品ですが、現在を指していると思わせる。価値観がひっくり返るような、黙示録的なこの世の終わりのような風景がつづきます。普遍的に通じるテーマです。1974年から、世の中は終わりだというような感じがあったんでしょうか」

大海「世の中は終わりですよね!(一同笑)」

松井「どういう気持ちで描かれたというか」

大海「作品描くのに、どういう気持ちもこういう気持ちもないですよ(一同笑)。あっという間にできちゃうんですから」(つづく

 

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