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黒沢清 × 篠崎誠 トークショー レポート・『世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌』(1)

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 9月から新作『散歩する侵略者』(2017)が公開中の黒沢清監督。その黒沢監督の対談・エッセイ、蓮實重彦阿部和重の評論などを収録した『黒沢清の全貌』(文藝春秋)も刊行された。

 青山にて黒沢氏と盟友の篠崎誠監督とのトークショーが行われ、黒沢マニア・信者(筆者も含む)が集結。かなり熱気のある雰囲気だった(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

黒沢「(ふたりの席に距離があるので)こんなに離れてるの」

篠崎「ちょっとびっくりしました(笑)」

 

 まずは新作『散歩する侵略者』の予告編が上映された。

 

黒沢「さんざん話したけど、何にも触れないのも…。いまさら隠すこともないんですけど、公開前に「侵略者」で宇宙人と言っちゃいけないと言われまして。侵略者のほうがより物騒だと思うんですが、予告編で宇宙人って言いまくってますね(一同笑)。まあ、宇宙人なんですよ。気楽に見ていただければ」

篠崎「会場にいるのはコアなファンの方ですね」

 

 『散歩する侵略者』のスピンオフドラマ『予兆』がWOWOWで放映中。

 

黒沢「全然狙ってなかったんですけど、東出(東出昌大)さんが変な感じで染谷将太がいて、『寄生獣』(2014)にそっくりですね(一同笑)。意識してキャスティングしてないです。ひとことで言うと、映画版の東出さんの正体が判ります」

篠崎「そのようにも見えるし、『仁義なき戦い』(1973)で松方弘樹が撃たれて死んで、2作目(『仁義なき戦い 広島死闘篇』〈1973〉)で眉を剃って別人の設定で出てくる。あれに近い(笑)」

黒沢「もうちょっと近いですよ(笑)」 

【過去の原作つき作品 (1)】

篠崎「この10年間、干支がひと回りする間の作品の過半数が原作物ですね。初めて原作物に挑戦したのは、椎名誠さんの『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』(1990)ですか」

 

 椎名誠の小説を「DRAMADAS」という枠でテレビドラマ化したのが初の原作作品。

 

黒沢大杉漣さん、諏訪太朗さんとやりました。ぼくが読んでいたわけではなく、小説をもとにして5話分つくってくれという依頼があって。一生懸命読んで脚本をつくって。原作とはだいぶ変わってしまったのですが。ぼくは椎名さんにお会いしたこともないんですが、何やってもいいよと寛大なことをおっしゃってくれて、流れは変わってしまって。活字中毒で活字を読んでないと禁断症状になる編集者に対して、全く売れない小説を没にされた小説家が復讐する。小説家が編集者を連れ出して味噌蔵に閉じ込めて、活字を読ませずにどれだけ我慢できるかという復讐をするのが原作でした。主人公が大杉さん、編集者が諏訪太朗さん。大杉さんが書いてるのは小説ではなく、蓮實重彦さんを思わせる評論という設定にして。原作にあったかは忘れましたが、活字がない状態にして無理やり読ませるということにしました」

 

 2003年にはNHK-BS「朗読紀行 にっぽんの名作」の1本として、宮澤賢治風の又三郎」を演出。小泉今日子が朗読を担当した。

 

黒沢「「風の又三郎」を小泉今日子さんが読む。いろんな俳優が日本文学を読んで映画監督が撮る、その中の1本です。(プロデューサー)の松田広子さんから、黒沢さんには「又三郎」がいいんじゃないかと。いわゆる映画ではないので、数本まとめてでないとソフト化できないかな」

篠崎「ホラーにしか見えないんですが。撮影はお生まれになった神戸のほうですね」

黒沢「たまたまで、ぼくが選んだのではなくて。有名な廃墟で撮影して。

 読めば気味の悪い小説ですよ。それをどうやって…。小泉さんが文庫本を淡々と読んでいるだけど、後ろで何か起こるんじゃないかと怪しい雰囲気に。不気味な風が吹いて、カーテンが揺れて」

篠崎「「どっどど」ってフレーズが怖い」

黒沢「研究家の話を聞くと(作中の)「どっどど」は意図と違う。「どっどどどど」と書きたかったんじゃないかと。「どっどどど」と不吉な風が吹きつける。それが正しいと聞いたので、そう読んでもらっています」

 

 『楳図かずお恐怖劇場 蟲たちの家』(2005)はオムニバス映画の一編。

 

篠崎「「蟲たちの家」は活字と違って絵がある。大変だったんじゃないですか」

黒沢楳図かずおを映画化するのは抵抗がありました。神をも恐れぬ行為、冒涜じゃないか。ただ仕事がほとんどないころで、おそるおそるやりましょうと。楳図さんにお会いしてみると愉快ないい方で、どうぞ自由にやってください、がんばってください、原作のことは気にしないでと」(つづく) 

 

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