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青山真治 × 黒沢清 トークショー レポート・『空に住む』『スパイの妻』(2)

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【『空に住む』 (2)】

青山「(『空に住む』〈2020〉では)ヒーローたるガンちゃん、岩田(岩田剛典)さんが2度ほどhellという単語を使うんですけど、どう言わせるか悩んでたんですね。何故そんなに悩むかといいますと、助監督時代に黒沢(黒沢清)さんの『よろこびの渦巻』(1992)というドラマをやったときに、地獄という言葉が台詞にあるんですけど、とある女優さんが言うと黒沢さんが言い直させるんですね。「ゴクって言うと重い。ジゴクッ」と。もう1回やってみましょうと何度も」

黒沢「全く覚えてない(一同笑)」

青山「ほらな、そうだと思った。ぼくは映画の演出のひとつだと思って、きょうまでやってきました。イントネーションというか台詞の出方は、役者さんや監督の思惑を反映しますね」 

 つづいて黒沢氏から青山真治氏に、逆襲のような問いかけがあった。

 

青山「中島美緒さんがカメラマンで10年近く助手時代から仕事をしてきたので、うまくコミュニケーションできたと思います。本人がどう思ってるかは判らないですけど」

黒沢「後半で永瀬(永瀬正敏)さんが軽トラックを運転するシーンで、助手席に多部(多部未華子)さんが乗っていて、猫の遺体の入った箱を持ってる。そこからカメラがバックしていくと、運転している永瀬さんが映ってくる。何でもないようなシーンですが、どうやって撮ったんですか…」

青山「よく訊いてくれました。いわゆる停め撮りなんですが」

黒沢「やっぱりそうなんですね」

青山「なんか白々しいような(一同笑)。私は助監督時代から、黒沢監督のもとで何度も停め撮りをやっていますので、何故この質問がふりかかるのか判らない(一同笑)。

 車を倉庫のようなところに置いて、あたかも走ってるかのような演技をしていただいて、窓の外から撮影する。照明も動いているようにするというテクニックを用いた」 

【『スパイの妻』】

 黒沢監督の『スパイの妻』(2020)NHK BS8Kのドラマとして制作されて、劇場公開もされている。

 

黒沢「『スパイの妻』ではカメラも照明も録音も、技術スタッフはNHKの人たちと初めて仕事をいたしました。最初は映画のシステムとNHKのドラマのシステムとがくい違っていて、とまどったところはありました。打ち合わせとかも。昨年は『いだてん』(2019)があって、こちらのロケハンとかに誰も来てないことがあって「きょうは『いだてん』の残りがあるんです」ということで。彼らも自分たちの都合できょうはロケハン行くとか、言えないわけですね。撮り始めるといつもと変わらなくて、こうしたいと言うと熱心にやってくれました」

青山「神戸のグッゲンハイム邸は素晴らしい邸宅ですね。映写も同じ場所でやったんですか」

黒沢「ええ、西洋館が主人公たちの家で、昔の9.5㎜のフィルムを映写するというシーンがあるんですね」

青山「あんなふうに暗く撮影しようという度胸はなかなか。ほぼ真っ暗で撮影しているように見えるんですけど」

黒沢「ぎりぎりのせめぎ合いがあったわけでもなくて、物語がサスペンスですからどこもかしもこ明るいということはなくて、どのカットにも暗い影が落ちていくということにしたいですという程度しか言ってない。NHKのスタッフは、こちら側は見えているけど逆側は暗いというふうに、面白がってやってくれましたね」

青山「世にも珍しい、暗い画面がえんえんつづくところがあります。ごらんになってない方は見て、映画ってほんとに暗いんだってかみしめていただきたいと思いますね。心おどるシーンでした」

 

【最後に】

黒沢「青山は昔から知っているので、つい雑談のように話してしまいましたけど。『空に住む』は一見物語だけだとほんわかした映画かと思ってしまいますけど、かなりショッキングできわどいと思いますね」

青山「『スパイの妻』は3週連続でベストテン内にいらっしゃる。黒沢さんの作品で初めて、そんなに長くベストテン内に(一同笑)。弟子としては興奮しきりなんですね。まださらにつづくことを祈りつつ、きょうはありがとうございました(拍手)」