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黒沢清監督 トークショー レポート・『散歩する侵略者』(1)

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 突如行方不明になった夫(松田龍平)が別人格となって帰ってきて、妻(長澤まさみ)はとまどう。住宅街で起きた一家殺人事件を取材するフリージャーナリスト(長谷川博己)の前には、奇妙な若い男(高杉真宙)が現れる。ふたつのできごとは、恐るべき地球侵略の始まりだった。

 

 最近『クリーピー』(2016)や『ダゲレオタイプの女』(2016)など矢継ぎ早に作品を連打している黒沢清監督の新作『散歩する侵略者』(2017)。『クリーピー』と同様、黒沢作品の中では娯楽寄りのつくりになっているSFサスペンスである。見慣れた観客にとっては、いつもの黒沢タッチに夫婦愛やアクションのシーン、説明台詞、情感あふれる劇音楽が紛れ込んでくる。

 9月、池袋にて上映後に黒沢監督のトークショーが行われた。聞き手は荒川優美プロデューサーが務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

黒沢「きょうは、俳優はいなくてぼくだけですから、のんびりしたトークになればいいなと思っております。荒川プロデューサーはWOWOWでやった『贖罪』(2012)や『Seventh Code』(2014)をプロデュースしてくださって、近作を何本もお願いしている有能な方です」

黒沢「(制作中は)宇宙人と言っちゃいけない、侵略者がやって来たと。松田さんも“ぼくは侵略者を演じてまして”と言うけど、予告編では宇宙人と言いまくってますね。まずくないですか(笑)。

 ハリウッド映画では、宇宙人の本体がパカッと。残念ながら今回は出てこないですが、存在としては宇宙人。

 脚本にも宇宙人と書いてあって、俳優たちからどうやればいいですかと訊かれましたが、判りませんと。宇宙人は乱暴なので金星人ということにしようかとも思ったけど、何か違うかなと。もう少し遠方のアンドロメダ星雲から来たとか、それも何か違う。大ざっぱに宇宙人、それ以外判らない。俳優の思う宇宙人っぽさを出して演じてくれたと思います。

 どれが正しい侵略なのか。最後に鳴海(長澤)と真治(松田)が海辺の崖の上にいて、空が割れる。ぼくも迷ったところで、CGを使っているわけですが担当者もどうしましょうかと。普通なことはしたくないけど、普通ってなんだろう。特殊なことをすると何だか判らない。それである意味判りやすい、急に原始的な火の玉が飛んでくる(ことにした)。専門家からすると違うかな(笑)。調べればアイディアが出たかもしれません」

 

 主人公の「やんなっちゃうな」という台詞は何となく印象に残るが、やはり黒沢監督としてもこだわりがあったらしい。

 

黒沢長澤まさみさんの演じた鳴海が夫の真治につぶやくわけですけど、目の前の真治だけでなく、それまで生きてきた過程や環境、仕事、すべてにもどかしい。いけないと思っていても何もできない…というつぶやきとして言わせてみました。2回、前半と後半で言うんですが。脚本には「やんなっちゃうな」と書いてあって、ぼくはめったにそういうことをしないんですが、今回は(杉村春子ふうにと)はっきり書きました。長澤さんは、はいわかりましたと演じてくれたんですね。もう随分前にお亡くなりになった名女優で(映画では)どちらかと言えば脇役、メインは舞台という方でした。小津安二郎の作品に脇で出てきてつぶやく、その感じでと。映画好きの人は、突然杉村春子だと(笑)」

 

 『アカルイミライ』(2003)や『クリーピー』にも出演した笹野高史が、組織を率いる謎の男役で登場。山田洋次作品など他の映画で見かける笹野とは違った役柄なのが面白い。

 

黒沢笹野高史さんがどうもリーダーらしい、通称ジャンパーの男たち。狙いは、何だこの男たち、という。見ておわかりのように、かなりの部分この映画はふざけている(笑)」(つづく) 

 

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