昨年、『この世界の片隅に』(2016)を大ヒットさせた片渕須直監督。その片渕監督の長編映画3本(『アリーテ姫』〈2001〉、『マイマイ新子と千年の魔法』〈2009〉、『この世界』)のオールナイト上映が、“片渕須直 長編アニメーション16年の歩み”と銘打って池袋で行われた。
上映前に片渕監督のトークショーが行われ、アニメライターで「アニメスタイル」主宰の小黒祐一郎氏が聞き手を務める。客席はぎっしり満員で、小黒氏の「若干平均年齢が高い」というコメントからトークが始まった(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
片渕「いままで長編が2本しかなくて、ひと晩埋まらなかったんです」
小黒「特集するならもう1本つくってくださいと」
片渕「16年で3本。『アリーテ姫』は構想8年って言ってましたね。ほんとは全部で8年。構想の中に制作も入ってます。すると16年に足して、24年で3本。平均8年で1本。『アリーテ』から『マイマイ』まで9年インターバルがあって、『この世界』は7年かな」
小黒「次の新作までに、東京オリンピック終わりますね」
片渕「それは間違いない(一同笑)。MAPPAの創立10年に間に合うようにって言われてるけど、間に合いそうにないです」
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【『アリーテ姫』】
片渕「『アリーテ』の8年は、結局お金が集まらなかったんです。企画は教育映画くらいの規模だったのかもしれないけど。スポンサーがどこに乗るのかが謎で。その間に映画『MEMORIES』(1995)やテレビ『ちびまる子ちゃん』『あずきちゃん』『カードキャプターさくら』をやって。それでテレビシリーズに疲れて、もうできませんって言ったら、顔が高野豆腐みたいになってるって言われて。これはいかんので、『アリーテ姫』を立ち上げましょうと。
編集の瀬山(瀬山武司)さん、『名探偵ホームズ』(1984)のときからの人ですけど、宮(宮崎駿)さんみたいなのかと思ったら違うのつくってきたとフィルム組みながら言われました。
何回かストーリー組み直して、途中までは漫画映画で、違うカラーで1回考えて、もう1回やり直していまみたいに。その間に『ちびまる子』とかを延々やってました。『アリーテ』やって、少し何か判ったのかな。
祖父が映画館やってて、東映動画の作品はひと通り見ています。『少年ジャックと魔法使い』(1967)とか、『長靴をはいた猫』(1969)くらいまで見て。記憶に残ってるのは舞台装置が複雑で、トリッキーな空間で何かやるというのが多くて。『わんわん忠臣蔵』(1963)は、ジェットコースターの上。『わんぱく王子の大蛇退治』(1963)もそうだけど、トリッキーな空間で、追っかけをやる。宮崎さんが関わってない作品もそういうので。『未来少年コナン』(1978)は、大塚康生さんが作画監督ということで見て、これもそうだ。見たその瞬間“東映動画”の文字が自分の中に点滅して、そういうのやれる学校はないかと大学受験しまして。当時月岡貞夫さんや池田宏さんがいて、月岡さんは『わんぱく王子』のクライマックスを作画した人です。『ホームズ』とかはやりやすいんですよ、その感覚で。
自分としては『ホームズ』も打ち切り。6本目は全うしてない。5本目の途中で作業が終わって、お蔵入りになって、後で別のところでつくられました。背景も現代制作集団で、山本二三さんでなくなって。撮影にも関わってません。宮崎さんの絵コンテもお蔵入りです。「白銀号事件」、「バスカビル家の犬」、「四つの署名」…。あと3本くらい。「バスカビル」は富沢(富沢信雄)さんが絵コンテ描いて、宮崎さんが直して、近藤喜文さんと打ち合わせして。でも富沢さんはやったっけって、やった本人も忘れてる。
「リトル・ニモ」(『NEMO/ニモ』〈1989〉)も途中で、監督がすごく交代して。(当初は)月岡さんが監督で、宮崎さんもスタッフで準備して高畑(高畑勲)さん、近藤さん、大塚さん…。その時点でぼくも入って、出崎(出崎統)さんが監督になって、また大塚さんに戻って。いろいろ考えてたのが、その度になくなる。そういうの繰り返して、人間って何かな。自分のモチベーションをどうやってつくり出せるか。何を支えに、何を思ってものをつくりつづけるか、考えてしまったのが『アリーテ姫』です。人間の営みが判ってきて」(つづく)
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