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片渕須直監督 トークショー(片渕須直 長編アニメーション16年の歩み)レポート・『アリーテ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』『この世界の片隅に』(2)

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【『マイマイ新子と千年の魔法』】

片渕「『マイマイ新子と千年の魔法』(2009)の企画は危険だと思ったんですよ。丸田(丸田順悟)プロデューサーから持ち込まれたけど“危険だけど”って。やってくれるとしたら片渕くん、と。

 『名犬ラッシー』(1996)が全うできない感じになって、子どもに向けて漫画映画をつくるのが、その仕掛けが機能しない時代になって。テレビでやってる有名タイトルの劇場版しかできない。地上波のアニメはもうタイトルがつづいてるものばかりで、そこへ見たこともないものを突然持ってっても無理だなと。

 児童向けだけど、大人が見られるものとしてつくっていったけど、配給が乗ってくれなくて、最終回が17時開始とか。それでファーストランの後で、レイトショーやってくれる映画館さがして、最終的には延びて1年やったと。そういうふうにやれば通用するけど、街で子どもが映画館指差して“お母さん、あれ見たい”ってない。こうやらないと世の中に伝わらないってのが、真ん中に立つ人がうまく機能しなかった。

 フィルムをワンセット持って、ワゴン車に乗ってキャラバンやるって検討して、でも学生バイトが次に停まる町に営業もしないといけないとか、それでそうじゃないやり方をしましょうと。

 『マイマイ』では映画館に“やってください”と言えるようになって、ただ営業しないでお客さんに来てもらうために、毎晩舞台挨拶に出ます、とか。『この世界の片隅に』(2016)は106回くらいやったけど、『マイマイ』はもっと多い。『この世界』ではギネスブック載れないです(笑)。全国あちこちでホール上映あるって聞いたら、そこへ電話して、挨拶に参りますと。“えっ!?”とか言われて、そこへ押しかけて。最後は京都の国立博物館の野外上映。行きますって営業かけて。もう上映決まってましたけど。京都で1泊して、もう『この世界』をつくっていて、そのまま広島へ行く。帰りは広島からずっと自分で運転して。

 『マイマイ』の舞台の山口県防府市の、1000年前に都があったところにスクリーン張って上映して。丸山プロデューサーはその前『この世界』は無理だと言ってたのに、1000人お客がいるのを見て、その場で考え変わって映画がGOと。スポンサーがすぐ来るわけじゃないけど心積もりとして、こんなにお客さんがいるなら次の企画を考えようって、自分たちが乗り気になっていく。

 8月だけで十何日間、合間に『マイマイ』やってて、コンスタントに1日平均0.9回くらい。1日2〜3回やってる日もあります。上がることも全くなくなりました。

 フランスで『マイマイ』の小学生相手の上映やって、すごかったですよ。小学生で字幕読めないから、上映しながら声はめてく。理解を深めるために、Q&Aをやって。事前に先生が責任持って説明するという、そういう教育。それ以上訊きたいことがあったら、監督に責任持って訊きなさいと。非シネコンがパリ周辺にあって、それを全部回っていく。図書館の視聴覚室でもやったんですよ」 

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【アニメというジャンル】

片渕「簡単にアニメ(というカテゴリー)に入れる。違いすぎてどうなのかなって。お客さんの層が違う。

 アニメってそもそもジャンルじゃなくて技法の名前。そういうふうに全部ひっくるめてアニメって言うのは、通じるところにとどかなくなる。『この世界』のような、そういう作品があるって認知してもらうために(ジャンルに)名前つけられないかな。『この世界』は、名前ない割りにお客さんが来た。映像学会とかで講演やって訴えるというのもやったけど、みんな名前を考えてくれなくて、考えつかなくて終わって。『ももへの手紙』(2012)とかもそうですね。『走れメロス』(1992)はタイトル聞いて、原作ありきの文芸物だと判りそうだけど」

 

【調査について (1)】

 『この世界の片隅に』(2016)では航空機のディテールや空襲の効果音などの正確さも話題を呼んだ。

 

片渕「『アリーテ姫』(2001)ではそもそも中世のヨーロッパを描きたいって言うと、森本晃司が学者じゃないからやめとけと。それでやってみて、フランスでフォーラム・ド・ジマージュというところで上映してもらったら、館長は文化庁みたいなのにいる中世の歴史の研究家でどきどきで。中世ヨーロッパ特集をしてたんだけど、結構いい線いってるよって言われて。それならもっと調べるなら日本を舞台にしようってことで『マイマイ新子』に。

 (『この世界』では)こうの史代さんの原作読んだら(ディテールを)上塗りするような原作で、そっちへ進んでいくことに。自分が見たことないものを人にお見せするなら調査しないと。ちょっと思いついただけでお金取っちゃいけない」(つづく)