新藤兼人監督『石内尋常高等小学校 花は散れども』(2008)の後半では、柄本明氏は主人公の晩年を演じている。
柄本「その前にですね、何だったかな…あ、池田敏春の映画で谷崎(谷崎潤一郎)の『鍵』(1997)ってのをやったんですよ。脳梗塞になっちゃうんですけど、そんな役やったのが役に立ったのかな」
新藤監督のインタビューと撮影日誌を収録した『石内尋常高等小学校 花は散れども』(岩波現代文庫)には、晩年のシーンでは柄本氏に質問されたとある。
柄本「現場で監督と話してないんですけど「花をもぎ取ってきた」という言葉に対して質問したのかな。あまり喋らないですね。なんかやっぱり言葉じゃないような。監督の様子見るとね、そんなことで…はい。基本はシナリオ読ませていただいて、ああまた撮れてよかったなと。
最初若いころを撮って、ぼくと(妻役の)川上麻衣子さんだけ大人で、あと子どもたち。あとで大人たちが出てくるシーンで、尾道の “竹村旅館” 。あそこの2階の大広間の宴会場で大竹しのぶさん、六平(六平直政)さん、りりィさん、大杉漣さん、トヨエツ(豊川悦司)、うちの角替和枝(夫人)がいて、カメラのポジションとか決めて。監督は車椅子で、大人の役者と会うのはぼくと川上さん以外初めて。ライティング済ませたら、監督が車椅子から立ち上がって「監督の新藤です。よろしくお願いします」。ちょっと感動しました。この旅館は『東京物語』(1954)のあれ(ロケ地)で、小津(小津安二郎)監督や原節子さんのサインもあって、監督が挨拶されたときはああいいなって。
『石内尋常高等小学校』もそうでしたけど『一枚のハガキ』(2011)は監督が98から99歳にかけてで、大変いいお仕事だったですよ。仕事が午後4時終わりでお酒。広島で2か月でしたけど、だから愉しかったです(一同笑)」
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遺作『一枚のハガキ』では、途中で急死する悲運の父親役。
柄本「(出番は)撮影所でした。にっかつじゃなかったかな。衣装合わせでは赤坂のシナリオ会館にある近代映協(近代映画協会)に行きまして。長いテーブルで、監督が上座。ぼくは立ち上がって、監督はいろいろと「柄本くん、この役はこうですから」って説明して。熱入ってくると、監督も立ち上がられる。ぷうって音がして、3回そういうことで誰も笑わない。みんなうなずいてて、ああとってもいいなと思いました。弔辞でもこの話をしました。
いつもと変わらず、ぼくが知ってる新藤組の雰囲気で淡々と。(最終日は)よく覚えてないですけど、多分死ぬシーンですね。そこはロケだと思いますね。ぼく割と忘れちゃうんですよ」
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柄本氏は、新藤作品の常連俳優だった殿山泰司とは縁があるという。
柄本「殿山(殿山泰司)さんは、ある意味いちばん好きな俳優さんですね。かっこよくないんだけど、はげだし。でもかっこいい。うちの親父と泰明小学校の同級生なんです。『三文役者ああなきい伝』(ちくま文庫)を読ませていただくと、親父のことが書かれてるんです。祖父がはんこ屋で、木挽町でした。殿山さんとは何度か共演させていただきまして「おい、親父どうしてるんだ?」って言われると嬉しかったですよ。とにかくかっこいい。殿山さんと比べられるような方は浮かんでこない」
最後に新藤監督についてひとこと。
柄本「新藤さんはやっぱり大監督ですけど、とにかく大大シナリオライターで大変な方でした。広島でお話させていただいたときにどの監督がお好きですかって訊いたら、マキノ(マキノ雅弘)さんだって。その日の気分もあったと思うけど、これ面白かったです」
筆者は、柄本氏を渋谷の映画館の階段で偶然お見かけしたことがあったが、じっくりお話を聴くのは初めてで面白かった。