意味深なタイトルをつけてはみたものの、さほど優れた妄想力を持ち合わせているわけでもない。さえない、どうしようもない春の日々…。
4月某日
渋谷の映画館へ行って、神代辰巳監督の火曜サスペンス劇場『死角関係』(1987)を鑑賞。
夫(石橋蓮司)が殺人容疑で逮捕され、愕然とする主人公(酒井和歌子)。近所の人の嫌がらせで自宅の窓ガラスが割られ、精神に変調を来した主人公はなぜか猟銃で対抗する。週刊誌記者は室内にずかずか乗り込んできて、主人公を言葉責め。夫は警察で刑事(草野大悟、速水亮)に痛めつけられる。隣人夫婦(森本レオ、戸川純)は主人公を気遣うが…。
全編異常な人びとが暗躍する、濃すぎな一編。やはり80年代の2時間ドラマは魔窟である。石橋蓮司と森本レオは、NHKの『人形劇 三国志』(1982)にて、ふたりとも声の出演をしていた。主人公夫婦と隣人夫婦が家族ぐるみで交際して飲む光景は『金曜日の妻たちへ』シリーズ(1983〜1985)を想起させる(80年代はこういうのが流行ってたのかな)。
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4月某日
渋谷の同じ映画館で、安藤昇主演の映画『阿片台地 地獄舞台突撃せよ』(1966)。評論家・山根貞男氏のトークショー付き。安藤昇特集ということで、いつもは映画マニアのおっさんで埋まる映画館に、その筋の方々が多数見えていたという。電話したら、受付の人も「いまいる方々は、トークのときには帰られると思います」とちょっと緊張気味な声。筆者が行ったときには、「方々」はもう見当たらなかった。
『阿片台地』は、懸命に日本語の台詞を話す中国人女性役のペギー・潘が素晴らしい。「米帝は日中共同の敵」と浅沼稲次郎が言ったというのは、どこで読んだのだったかな。
4月某日
つんく氏が、咽頭癌により声を失ったとのこと。筆者は、中学時代がシャ乱Q、高校時代がモー娘。のブーム絶頂期だった。だが派手なヒット曲だけでなく、シングルのカップリングやアルバムの目立たない曲にも、つんく氏の個性は滲み出ている。無難にウェルメイドな秋元康作品とは異なり、前向きな歌詞やメロディーから抑えきれない哀しみがこぼれ出してくるところがあった。先日、テレビ『有吉&マツコの怒り新党』にてマツコ・デラックス氏がつんく曲の魅力について話していて、個人的に共感を覚えた直後の報せ…。
4月某日
筆者と年代の近い方が書かれたあるブログを読んでいたら、ドラえもん映画の主題歌は、明るいのよりせつないほうがいいとあって膝を打つ。たしかに幼いころに見た、80年代ドラえもんの武田鉄矢関連物件は、センチメンタルでよかった。もっとも近作『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』(2013)の明るい「未来のミュージアム」は、名曲だったとも思う。
4月某日
『怒り新党』にて、コンクリート彫刻家・浅野祥雲の特集が。以前、『タモリ倶楽部』でも愛知県の桃太郎神社などにある浅野祥雲作品が取り上げられていて面白かったが、今回は祥雲が軍人像をつくり戦没者を決して忘れなかったというシリアスな側面もしっかりと描いているのがいい。
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つづいて、小泉今日子原作の連作テレビドラマ『戦う女』の第3夜。昨秋にCSで放送されたそうで、既にソフト化済みだという。これが思わぬ拾い物だった(脚本・監督:垣内美香)。
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交際中の彼に倦んでいる22歳の女性(岸井ゆきの)は、仕事先で出会った中年男(吹越満)と恋に落ちる。
陰影の強い映像は、単館系映画を思わせる。ちょっと地味目な主役の女優さんが、なかなかいい(背伸びして?伊丹十三エッセイの最高傑作『ヨーロッパ退屈日記』〈新潮文庫〉を読むシーンとか)。同じく好演の吹越満だけれども、吹越氏というと『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の印象が強く、今作を見ても『冷たい熱帯魚』(2009)や『あまちゃん』(2013)を見ても、『シュシュトリアン』での彼を思い出してしまう。
小泉今日子の原作は読んでいないのだが、小泉氏は無類の読書家であるらしい。
「彼女の「オールナイトニッポン」はほぼ毎週きいていたので、あなたはどうしてあんなに本を読むのですか、とたずねた。
「私は中学しか出ていないから、そういう風にしていないと…」
と、彼女は暗い表情で答えた。
「コイズミさん、ちょっと…」
と声がかかると、さっと十八番のキョンキョン・スマイルに戻るが、席に帰ってくると、また暗い表情になる」(小林信彦『物情騒然。』〈文春文庫〉)
1988年ごろのことだという。
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