
『映画俳優安藤昇』(ワイズ出版)の中で安藤さんは、加藤泰はとても面白い人でいい監督だったと言っています。
安藤さんの記憶違いで『阿片台地』(1966)でってと言ってますけど、『男の顔は履歴書』(1966)の殴り込みで安藤昇は日本刀で迫っていく。フルサイズでなく上半身で斬っていくシーンがあるんですね。上半身しか映ってないんだけど、斬られたやつは死体になってそのまま下にいろ、と。安藤さんは感じ入って、画面に映らなくても死体がいるので、とても演じやすかったと。だから、加藤泰はいい監督だと言っています。
加藤泰は、俳優が演技しやすいように現場をつくる監督です。ぼくは加藤泰と何度も会って、現場も見せてもらいましたけど、ご本人は優しい好人物で、ゆっくり喋る。でも撮影が始まると、鬼のようになって怖い。でも命令して怖いんじゃなくて、自分が望むように妥協せずに現場を押し進めていくということです。
『男の顔は履歴書』で最初に打ち合わせをしたとき、加藤泰は “安藤さん、大変失礼だけど、あなたは元やくざでしょ” 。安藤昇も違うとは言えない(笑)。加藤泰は、やくざってのは自己顕示欲が強い人が多い、自分を目立たせようとするのは演技でしょ、駆け引きとかも演技です、安藤さんはそれをやってください、と。助監督で後に監督になった三村晴彦さんから聞きましたけど、想像してください。あの安藤昇に「あなたは元やくざでしょ」とは普通言えませんよね(笑)。それをズバリ言っちゃう。安藤昇もそういう率直さを受け止め、感じ入る人だった。著書でも加藤泰はいいと書いています。加藤さんも、安藤昇は身のこなしがいい、動くのがいい、と。ただ台詞を喋るのがちょっとぎこちないと言っています。だから元やくざでしょって言っちゃったのかと思うんですが。
加藤泰は1916年生まれですから戦争世代。戦争中に満州映画協会にいて、記録映画を撮っています。1945年8月の終戦1週間前に中国で召集されて、1週間だけ兵隊になってる。満州での体験が『阿片台地』にも何らかの形で反映されているのかな。安藤昇は1926年生まれ。戦争中に満州の奉天の中学に少しいたらしい。海軍の予科練に入って特攻にでようとしていて、戦争が終わった。ふたりはちょうど10歳違いで、戦争世代の上と下、満州の体験もあって意気投合したんですね。
ぼくは『阿片台地』を封切時に見て、その後にも見て、今回十数年ぶりに見たんですけど、菅原文太さんが出ていたのを忘れてました(笑)。加藤泰は、この作品は不出来な映画だったと言い切ってますね。安藤さんと親しくなったけど、信頼に応えられなかった。もうひとつは脚本で、国弘威雄と加藤泰とは『幕末残酷物語』(1964)もやっていて、加藤泰は国弘さんの力量を認めていて、その脚本を自分が画にできなかったと。そういう思いが去来するんですね。
それは撮った監督の思いで見る側としては、よくやってるんじゃない? 面白いんじゃない? と言いたくなる。自由に見ていいんじゃないかな。つくった人の思いを踏まえて見ちゃうというのは、映画の見方としてはよくない、とぼくは思っていて。映画に対しても失礼かな。
『昭和やくざ系図 長崎の顔』(1969)も封切り以来で何十年ぶりに見たんですが、安藤昇は小さな役なのに、出ると画面の緊迫度が違う。安藤昇がものすごくうまい。チラシで公開日を調べたら3年後で、次々に映画に出て俳優として充実していったんだと判ります。加藤泰と出会って親しくなって、充実していったのかな。みなさんも、どうぞ愉しんでください(拍手)。

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