【『響子』~『風立ちぬ』(2)】
17.『小鳥のくる日』(1999)脚本:金子成人
かつて出奔した父(小林薫)が17年ぶりに突如戻って来た。次女(戸田菜穂)は父に反発、三女(田畑智子)は慕い、姉妹で唯一父と血のつながりのない主人公の長女(田中裕子)は複雑な思いを抱える。父はなぜか小鳥の鳴き声を詳細にマスターしていた。
前作が渋すぎただけに今回は過去のシリーズの要素を散りばめた、無難と言うか既視感のあるホームドラマとなった。特に『風を聴く日』に酷似した展開なのだが、今回は人物設定が全般に紋切り型で『風を』のような静かなる毒も深みもない。けれども「モッキン・バード・ヒル」のメロディとともに主人公のその後をナレーションでさらりと告げるラストはせつなく素晴らしい余韻を残し、シリーズの円熟を感じさせもした。
次女と交際する悪い男役は小説家の町田康が好演。
18.『あ・うん』(2000)脚本:筒井ともみ
成金の実業家(小林薫)と友人のサラリーマン(串田和美)、その妻(田中裕子)の微妙な三角関係。
今回は筒井ともみの脚色で向田脚本の名作ドラマをリメイク。田中、小林に加えて森繁久彌や竹中直人など、ああ久世が撮ればこうなるだろうなという座組みが愉しい。母親役で常連の加藤治子はナレーションに回った。
小林竜雄『久世光彦vs.向田邦子』(朝日新書)にて触れられている通り、全般に軽いタッチでオリジナル版の情感には及ばなかった感もある。
2000年代に突入するとあってか、新春シリーズとしては唯一の元旦の放送だったが、視聴率は5.4%。この結果ゆえに次作でシリーズ終焉に至ったのかもしれない。
出戻りの長女(田中裕子)の前に、突如失踪した夫(小林薫)が5年ぶりに姿を現した。次女(宮沢りえ)は海軍中将(町田康)に強引に求婚されるが、彼は何か胸に秘めているらしい。中流家庭に、静かに風が巻き起こった。
“さらば向田邦子” と銘打たれたシリーズ最終作。テレビ『乳房』(2000)、映画『たそがれ清兵衛』(2002)などこの前後の時期に演技開眼した感のある宮沢りえや町田康といったフィナーレにふさわしいにぎやかな顔ぶれが集結。宮沢はこの2年後の久世作品『血脈』(2003)でも見事な演技を見せた。町田には前々作の『小鳥のくる日』がひどい役だった埋め合わせか(?)見せ場が用意されている。
後半の自決シーン(少々ぎょっとなる)を除くと過去の作品のコラージュのような筋立てで、どう見ても凡作なのだが、加藤治子が家族の維持こそ至上の責務であると説くクライマックスはホームドラマ色の強まった90年代以降の本シリーズを象徴しているように思えて感慨がある。ラストの黒柳徹子のナレーションにはジーンとなった。
初見再見含めて20本つづけて見ていると真面目な役人、謹厳な父、女たらし、活動家、落語家と作品ごとに変幻自在の小林薫には、驚きを通り越して笑ってしまう。またこれほど地味で渋いシリーズが17年も継続したことにも驚かされる(『久世光彦vs.向田邦子』によると、何度となく打ち切りの危機はあったらしいが)。
生前の久世は愛着のある3本として『風を聴く日』『風立ちぬ』『女の人差し指』を挙げたという。個人的には『小鳥のくる日』などリアルタイムで見たときはつまらなく感じたのに、見直すとちょっとほろりとしてしまった。歳月を経ると同じものから別の面白みを見出すこともできるのか。