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田畑智子 トークショー(甦る相米慎二)レポート・『お引越し』

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 クライマックスで、過去の幸せだった時間の情景が、レンコの目の前に現れる。そのまぼろしが消えていくのを見て、レンコは過去の自分を抱きしめる。彼女は、幸せだった時間がもう帰ってこないことを悟り、受け入れたようである。

 

榎戸「夢のシーンは、もうひとりのレンコは吹き替えですけど」

田畑「そこでも何も言わないんです。1回しかできないからしっかりやれと」

 

 夢のシーンで水上神輿が燃えるので、1回しかできないということだろう。

 

榎戸「でもそんな指示でしっかり演技したんだから、あなたは天才ですね」

 

 1992年夏の撮影を経て、翌93年の春に公開。田畑さんは、その年の新人賞を独占した。

 

田畑「中学一年になったときに公開されて、お友達と見に行きました。それ以来見ていなくて。見られなかったですね。恥ずかしい気もして、家にDVDはあったんですけど、ずっと封も開けずに、一昨年にやっと」

榎戸「フィルメックス(2011年の東京フィルメックスにおいて相米作品が上映され、田畑さんも出席)の前ですね」

田畑「見たら、台詞が全部入ってた(覚えていた)んです。びっくりしました」

榎戸マトリョーシカじゃないけど、いまの智ちゃんを開けると、レンコが入ってるみたいな(笑)。去年、パリ(のシネマテーク・フランセーズ)で『お引越し』が上映されたときも、11歳の智ちゃんが絶賛されてましたよ」

 

 

 今年、故・相米慎二監督の特集上映“甦る相米慎二”にて、上映された『お引越し』(1993)。両親の離婚を経て変わっていく小学生女子・レンコ(田畑智子)を描いた傑作である。脚本は、映画『サマーウォーズ』(2010)やテレビ『夜行観覧車』(2013)などで知られる奥寺佐渡子が手がけている(小此木聡との共同)。

 21日、渋谷のユーロスペースにて、『お引越し』の上映後に、田畑智子さんのトークショーが開催された。『お引越し』は、もとより評価が高い作品であるゆえ、映画館はぎっしり満員。筆者は、通路に座って見るのは90年代の『ドラえもん』の映画以来久々である。

 上映終了後、すぐに田畑さん登場。トークの相手役は、『お引越し』をはじめ多数の相米作品で助監督を務めた榎戸耕史監督(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや、整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 撮影時に11歳だった田畑さんの『お引越し』出演のきっかけは、京都・祇園にある実家の料亭に、たまたま相米監督たちが来たということらしい。

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田畑「お客さんが来ているから、ちょっとご挨拶に行ってらっしゃいと。姉と三人で行ったら、そこに相米さんとスタッフの方がいて、話して、終わった後にあれは何だったんだろうと。その日の夕方、私だけ呼ばれて行ったら、ホテルにスタッフの方が20人くらいくらいいたんです。お芝居やテレビは、ほとんど見ていなかった。引っ込み思案で、お客さんに挨拶もできなかったのに」

榎戸相米さんは、上のお姉さんじゃなくて、下の子じゃないといやだ、撮らないと」

 

 相米監督は、ひと目で田畑さんの資質を見抜いたということだろうか。まさに映画のワンシーンのような、運命の出逢いだった。

 

田畑「後日東京へ来てって言われて、最終オーディションは、東京で5人でした。中目黒の坂を走ったり、台詞を読んだり」

 

 オーディションに合格した田畑さんは、8000人以上の候補者の中から選ばれることになった。

 

田畑「撮影に入るまではごねた。東京からいろんな方が説得に見えました。おばあちゃんに“一回でいいからやってみなさい。厭だったらやめていい”と言われ、そうなんだと」

 

 撮影は夏なので、春からリハーサルが始まった。3か月、父親とボクシングごっこをするシーンの練習で立命館大学のジムへ行ったり、助監督と公園で大きな声を出したりしたという。

 夏になって、いよいよクランクイン。田畑さんが在住した京都での撮影だが、親元を離れて合宿所に泊まったという。

 

田畑「どうやって逃げよう、違う門から帰ろうかとか。合宿所は撮影所の近くで、“帰るな”って言われて、泣きながら電話しました。家に帰ったけど、結局また戻って、“あーあ、戻っちゃったな”って」

 

 後半、祭りの夜にレンコがひとりさまよう長いシーンがある。この件りは台本になかった。

 

田畑「何でこんな草むらに連れて行かれるんだろうと。人通るの?ってところを登って行けとか、降りて行けとか(笑)。お前はいろいろ経験していくんだぐらいの説明なので、理解していなかったですね。ただもう一回、もう一回と」

 

 どこは悪い、という細かい指示はなく、ただ繰り返した。その証言は、他の相米作品の出演者とも共通する。

 

榎戸「スタッフはみんな、智ちゃんと何を話しているのかなって。こっちは(土地勘がなく)位置もよくわからないから」

田畑「(ロケ地は)滋賀県に近いところですね」

榎戸「スタッフもただ連れて行かれて、山の中で見てるだけ」

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 撮影中は、相米監督に“タコ”“がきんちょ”などと言われつづけたそうだが、新人賞の授賞式で再会したときには、初めて“田畑くん”と呼んでくれたという。

 2013年、田畑さんは、『ふがいない僕は空を見た』(2012)により、毎日映画コンクール主演女優賞を受賞。過去に『お引越し』では同新人賞、『隠し剣 鬼の爪』(2004)で同助演女優賞を獲っておられる(榎戸さんによると「毎日映画賞の三冠達成は初めて」)。円熟した“田畑くん”が再度相米映画に登場することはもうないが、相米監督の力によって、『お引越し』には将来の三冠女王の幼い頃のきらめきが焼きついている。

 

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