【市川森一の人間像 (2)】
真船「プロテスタントは、どっかの教会の教会員になる。市川さんは、麻布にあるぼくと同じ教会に移ってこられて。長崎の新聞に、天草四郎が徳川幕府に反逆したという小説を書いていらして(『幻日』〈講談社〉)それが終わったら教会に一生懸命通うよって。
雑誌が2011年の1月に出て(「Ministry」2011年1月号)小説は6月に発刊。7〜8月は毎週日曜日にお祈りがあって、来ていた。9月になって来なくなって、忙しいのかなって思ったら、はがきが届いたんです。勲章をもらって、受章の日に肺がんを宣告されました、ぼくらしい浮き沈みの激しい人生です、もしものとき葬儀は教会で、と。その後は面会謝絶で、神さまのもとへ行かれてしまった。
「悪魔と天使の間に…」は人間の心の本質を見つけてほしいというテーマ。『ウルトラマンエース』(1972)の最終回(「明日のエースは君だ!」)では “優しさを失わないでくれ(…)例えその気持ちが何百回裏切られようと” 。これがエースの遺言なわけですね。
『幻日』では、処刑された天草四郎の幻影を松平信綱が見る。そこで、あなたを許そう、と。イエスキリストの心に許しがある。『エース』から40年を経て、遺作でもそれを言ってる。一貫した考え方ですね」

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切通「市川さんは『エース』の最終回を完全に覚えていなくて、エースのお面を付けたこどもが宇宙人をいじめている場面があるんですが、アイロニーだとそこは覚えていた。やっぱり当時は悪意押しだったんですね。DVDのコメンタリーのために見直したら “おれはこんなに深い話を書いていたのか!” と(一同笑)」
【真船禎とウルトラマン】
『ウルトラマンエース』の宿敵・ヤプールの設定はメインライターの市川森一が作成したが、ヤプール退場の第23話「逆転!ゾフィ只今参上」の監督・脚本は真船氏。無気味な老人(大木正司)が暗躍し、子どもたちを煽動。海辺で唄う老人と子どもたち、人が消える公園・あぜ道・プールなど悪夢的な映像は幼心に強烈なヴィジュアルショックをもたらす。
真船「ヤプールの設定は市川さんがつくったんで、市川さんの意図とぼくの意図は…。
ぼくは、ヤプールは人間のインナーな意識で心の中にいる、と。あの天体にいるとかではなくて、人間が死なないとヤプールも死なない。
ぼくがやりたかったのはマインドコントロール。戦時中は勉強しないで竹槍をつくってた。それをアメリカ人の急所に突っ込め、それで死ねと。そういう少年時代でしたから、それをやりたい。老人が “海は青いか、海は黄色だ!” と言うと、少年たちも “海は黄色だ” と。老人が怖いからってならまだいい。でも本当に黄色く見える。これが洗脳なんですね。たまたま戦争が終わって生き残ったけど。これはヤプールでなく、人間関係のドラマですね」
『ウルトラマンタロウ』(1973)では第33話「ウルトラの国大爆発5秒前!」など4本を演出。
真船「『帰ってきたウルトラマン』(1971)や『エース』は真面目だったんで、視聴者は飽きてきた。『タロウ』のころは時代も変わって “もしも私が家を建てたなら” って唄も流行って、マイホーム的・小市民的になってきた。そういう時代に即するようにタロウは生まれて、末っ子の坊やという設定になったんですね。するとこれではならんと、桜木健一の『柔道一直線』(1969)が当たっていたんで、『ウルトラマンレオ』(1974)では徹底的に根性ものをやろうと。人間的になっていきましたね」
切通「当時は(最近のウルトラと違って)ウルトラマンで育ったわけではない人たちがつくっていました。宇宙だけでやりとりすると話が遠くなるから、人と人の話にすれば視聴者に身近に感じてもらえるというのがあったんじゃないかな。怪獣を見たけど(周囲に)信じてもらえないとか。そんな、毎週怪獣出てるのになとか思うんだけど(一同笑)」
真船「(初期のウルトラシリーズは親なども見ていたが)テレビの情況が変わってきて、7時台の番組は子どもだけしか見ないだろうというふうになっていったんですね」
『タロウ』第33話「ウルトラの国 大爆発5秒前!」の強敵・テンペラー星人は、猿のおもちゃから指令を受ける。
切通「テンペラー星人を、シンバルを叩く猿が操ってるという(笑)」
真船「あれは皮肉で、当時は受験戦争で、よく猿のおもちゃが使われてた。お母さんが洗脳されている。子どものことを考えるっていうけど、納豆と味噌汁があったら子どもは育つんです。何でも受験受験ってどういうことだと」
真船「市川さんが亡くなる年の3月に原発事故があった。市川さんは天草四郎の小説を書いていらっしゃるときですけど、コラムでいまあったほうがいいかという議論はあっても遠い未来のことを考えることがない、と。ロマン・ロランの “人間は幸福になるために生きているのではない。神の掟を成就するために生きているのだ” という言葉を引用しています。
2000年前からキリストは優しくあれ、と言ってきた。ぼくだって怒ってばかりだけど、優しくあれというのは理想で、理想を追うのが祈りです。市川さんは最後まで祈りをテーマに生きていらしたと思います」
切通「遺言がシナリオ集(『市川森一メメント・モリドラマ集』〈映人社〉)に載ってて “私は、弱い者ではない” と。市川さんは、理想を情けないとは思っていない。理想を言うために現実を突きつけるというところがあったんですね」
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