【『ウルトラマン』のエピソード (2)】
古谷「(ネロンガ役の)中島春雄先輩に教わったんですが「ヒーローは最後に勝つんだから、それまではかっこよくやられろ。おれはかっこよく投げられるから。お前は力を入れなくていいよ。手で押すだけでいい」というのが中島さんの持論でした」
切通「『ウルトラマン』(1966)でウルトラマンは怪獣の突起物をよくはがす(一同笑)。怪獣が痛そうにする。ただウルトラマンも頭を叩かれて痛がって、そういうのものちのウルトラマンではあんまりない」
古谷「本来は人間的になっちゃいけないんですけど。にせウルトラマンの回(第18話「遊星から来た兄弟」)では、指が折れたみたいな感覚で、高野(高野宏一)監督がカットしてくれると思ってたから。ほんと痛かった。おれの素手で(相手の)プラスチックの目が割れたのを鮮明に。高野さんがあれを使うとは(一同笑)」
切通「スペシウム光線が決め技だと思っていると、意外にテレスドンとかレッドキングとかスペシウム光線を使ってない。戦ってるうちに怪獣が力尽きて死んだように見える。それまでのやりとりで力尽きたことになんかリアリティーがある。この点ものちにはあまりない」
佐藤「古谷さんや荒垣(荒垣輝雄)さんのつくった肉弾戦の世界ですね」
切通「擬闘のアクションはやっていなかったとおっしゃっていましたけど、ダダの回(第28話「人間標本5・6」)で後ろに出てきたダダを回し蹴りするかっこよさは、のちのウルトラマンより決まっている感じがします。チョップとかも古谷さんの身体能力かなと」
古谷「だと思いますけどね。東宝に空手道場があって通ってましたけど、スタントマンもチャンバラもやってない。アクションは一切できませんから無理ですって最初はお断りしたんですが「特撮だから、カメラを速くしたり遅くしたりすれば何とか絵になるから大丈夫だよ」とか言われて押し込まれたんですね」
切通「『帰ってきたウルトラマン』(1971)の初期も特撮の監督はほとんど高野さんですけど、監督は同じなのにウルトラマンのアクションは全く違って見える。演者が違うからですけど、初代ウルトラマンの回し蹴りやチップのかっこよさは古谷さんだからなのかな」
古谷「英一(『帰マン』のきくち英一)さんはかなりのアクションの人ですね」
切通「ただ帰ってきたウルトラマンのアクションは、そんなにめりはりがない」
佐藤「もう段取りが決まっていたんでしょうね。最初のウルトラマンは何も判らなくてほんとに手探り。火責め水攻めで加減も判らない」
古谷「3Kの現場ですね(一同笑)。ドドンゴの回(第12話「ミイラの叫び」)では円谷英二監督の息子さん(円谷一)が監督だからできたんですね。セットの土を3~4メートル掘り返して大変お金がかかったわけです。(自社スタジオでなく)東宝から借りたスタジオで掘っちゃったという。穴には空気が入ってこなくて、ドドンゴ(のスーツアクター)のふたりもぼくも3人とも酸欠だと判らない。とにかく苦しい。何でだろう。ドドンゴの荒垣さんももうひとりもぐったりしてる。サリンでも撒かれたかなと(一同笑)。でもただ土の匂いだけ。外に出たらいくらかよくなって「そうか、酸素がねえんだよ」。次の日に一さんが携帯の酸素ボンベを持ってきてくれて。こんな優しい監督はいませんね(笑)」
切通「現場が改善していったと」
古谷「『ウルトラQ』(1966)でのラゴンとケムール人はこんな感じだったので改善してくださいと言って。そのころはペットボトルもポカリスエットもなかったですが、やかんに入った水とか用意してもらって。塩とかレモンとかも。画面には映らないですけど、人間的に優しい空気の中でやりましたね(笑)」
切通「戦うところだけ見るとこんなに短いんだなと。ジャミラがのたうち回るところとか。ザラガスとか、もっと大変な戦いだった気がしてたんですが。ふくらみがあるんですね」
古谷「特撮は60カットくらいしか使ってません。3分もないですね。そのために200~300カット撮るわけですが、高野さんは「こんなの撮ってても時間の無駄かもしれない。どうしようかねえ」って言うんですね。ただ300カットの中からいいのを60カットくらい出す。3分もないんですが、そのために何日もかけて撮ったんですね」
切通「シーボーズの回(第35話「怪獣墓場」)は映像がストップモーションで止まるんですが、派手なアクションですね」
古谷「あれ、吊ってるような感じでしょ」
佐藤「動いてるのが見たいけど、実相寺(実相寺昭雄)さんなんでアクションの途中で止まるのがはぐらかし」
切通「はぐらかしてるんですけど、ひとつひとつのアクションをよく見るとかなりのことをやってます」
古谷「火薬を使うと匂いがして煙が上がって画面が何も見えないとか佐川(佐川和夫)さんが言いますよね。「お前減らせよ!」(笑)」
切通「ザンボラーの回(第32話「果てしなき逆襲」)は火事にならないかと見ていてどきどきします」
古谷「なったんですけど(一同笑)。救急車呼ぼうかっていうことも何回もありました。ただ呼ぶと、後で現場検証が来ちゃうから。“隠す” というのも3K(一同笑)。
あのころはセットの中に火薬や石油があるのに、タバコは平気だった。みんな平気で吸って(一同笑)」
【その他の発言】
古谷「『ウルトラマン』はブラジルのサンパウロで人気があります。『ウルトラセブン』(1967)はペルーやメキシコ。こないだ英一さんといっしょに行きました。『帰ってきたウルトラマン』はそんなに知られてないんで、彼は殺陣をしようと日本刀を持ってったら空港で案の定(一同笑)」
『ウルトラセブン』の話にはあまりならなかったが、わずかにセブンのスーツアクター・上西弘次氏について触れられた。
古谷「弘次さんは東宝で三船さんの立ち回りの斬られ役をいっぱいやってましたね。他の時代劇でも立ち回りをやってましたから、東宝撮影所によく来てました。ぼくが『ウルトラマン』を終わって、『ウルトラセブン』ではアマギ隊員役をもらって、弘次さんのところへ行って「弘次さんよろしく。ウルトラマンの真似する必要は全くないんで」「古谷さん、ぼくはぼくなりのウルトラセブンをやりますよ」って話をしました」