先ごろ『実相寺昭雄研究読本』(洋泉社)が刊行され、その厚みには驚愕した。テレビ『ウルトラマン』(1966)や『ウルトラセブン』(1967)、ATG映画『無常』(1970)といった代表作からテレビ『レモンのような女』(1967)、JALの機内映画『日本のこころ』といった知名度の低い作品まで解説されており、スタッフ、俳優、評論家などインタビューも多数(誤植が目立つのは残念ですが)。
そこで僭越だけれども、この労作に補足させていただきたい。実相寺監督が好んで描いてきた人間社会に潜む異人=宇宙人について。
故・実相寺昭雄監督はテレビ『ウルトラマン』(1966)につづいて『ウルトラセブン』(1967)に参加。怪獣メインだった『ウルトラマン』に対して『ウルトラセブン』は知性を持った侵略宇宙人との全面戦争というコンセプトであった。アパートの和室にて狡猾な宇宙人が潜み策謀をめぐらしている第8話「狙われた街」(脚本:金城哲夫)が、実相寺作品における市井宇宙人路線の第1弾だろうか。『セブン』は「あなたの隣にも宇宙人がいる」(実相寺昭雄『夜ごとの円盤』〈大和書房〉)という主題なので、他の監督も「アンドロイド0指令」や「怪しい隣人」など住宅地に宇宙人が潜伏するエピソードを撮っているが「狙われた街」での異形の宇宙人が畳の上にあぐらをかいている光景は驚くべきものだった。また人間に化けた宇宙人を主人公(森次晃嗣)が追跡する件りも逆光と効果音を駆使して凝っており、実相寺の傑出したセンスを感じさせる。
つづいて時代劇『風』(1967)を撮った後で『セブン』に復帰した実相寺は、第45話「円盤が来た」の脚本・監督を兼任。「宇宙人ものに戻るのも何となく気が重かった」(『夜ごとの円盤』)そうだけれども、この回でも何の変哲もない住宅が宇宙人のアジトだった。室内で人物が逆光になり宇宙人に変身するシーンは忘れがたい。
「金ちゃん(引用者註:金城哲夫)なんかも考えてたけど、日常があって、それが戸板のドンデン返しみたいに、ふっと、一枚ひっくり返ると、とんでもない世界があるみたいなね。襖一枚隔てて、宇宙船がある世界。なるべく、日常的な所で飛躍させようとした」(『夜ごとの円盤』)
宇宙人はたまたま与えられた素材だが、日常の狭間に異世界が広がっているという趣向にはやはりこだわりがあったらしい。
3年後の『シルバー仮面』(1971)では化け物のような宇宙人が喫茶店で平然とコーヒーを飲んでいる(脚本:佐々木守)。『シルバー』は第1話「ふるさとは地球」の真っ暗な襲撃シーンが頻繁に取り上げられるけれども(『マツコ・有吉の怒り新党』の実相寺特集〈2013〉など)同じく第1話にてピアノ曲の流れる中、篠田三郎が黒服姿の宇宙人を追って郊外の街をさまようシークエンスも情感があって陶然となる(上の写真)。第2話「地球人は宇宙の敵」では、着ぐるみの宇宙人が純日本的な農村で何やら叫びながらガスを散布するという奇矯なイメージが展開された。
住宅や会社に宇宙人がいる設定は、先述の通り『セブン』の他の話や『世にも奇妙な物語』(1990〜)などにもあって別段珍しくもない。だが実相寺の市井宇宙人路線が特徴的なのは、不審な人影(宇宙人の人間体)が蠢く妖しさを極端なアップやアングルで描く一方で、平々凡々な風景に突如着ぐるみの宇宙人が出現するミスマッチ感もあるという点。映像美とシュールさの合わせ技は眩暈がするほどのインパクトをもたらす。
1980年代に入ると実相寺昭雄はアダルトビデオやVシネマにも進出。アダルトに関してはTBS時代の同期(並木章氏)に「お前もフリーになって落ちぶれたもんだ。俺の忠告も聞かずTBSをやめるから、そんなものに迄手を出す羽目になるんだぞ」(『夜ごとの円盤』)などと言われたらしいが、実相寺監督は何か新奇に映るメディアにはフットワーク軽く挑戦するところがあった。(つづく)