先ごろ世を去ったやなせたかしは漫画家、イラストレーター、作詞家などマルチな経歴で知られる。筆者も幼いころにはテレビ『それいけ!アンパンマン』(1988~)を見ており、後年には大人向けに書かれたエッセイなども興味深く読んだ。
だが、筆者が初めてやなせたかしの名を強く意識させられたのは、それらの作品ではない。もちろん『アンパンマン』を見ていて “原作 やなせたかし” のクレジットは目に飛び込んできたし、後追いで原作の絵本を読んでやなせの名は知っていた。けれども、それ以上に印象が強かったのは、東君平の本に書かれたやなせの解説であった。
イラストレーター・詩人・童話作家の東君平は1960年代から80年代にかけて活躍した。猫や子どもなどを描いたほのぼのとしたタッチが持ち味で、1973年から1986年まで毎日新聞に『おはようどうわ』を連載(単行本はサンリオ刊)。子ども向けの童話『どれみふぁけろけろ』(あかね書房)、『おかあさんがいっぱい』(金の星社)、詩集『心のボタン』(サンリオ)、『へびとりのうた』(同)、ショートショート的な『くんぺい魔法ばなし』(同)などの作品がある。後年の作品は絵よりも文章に比重がかかっていた(1986年12月、東は46歳で逝去)。
筆者はまず『おはようどうわ』を読んでいて、やがて童話を経て比較的高い年齢層に向けた詩集や『くんぺい魔法ばなし』に進んだ。『くんぺい魔法ばなし』は1974年から1987年まで「詩とメルヘン」に長期連載され、3冊の本にまとめられている。当初は魔法使いを主人公にした起承転結のある小咄であったが、やがて作風は変化し、青年の恋愛や日々の哀歓をつづった内容が増えていった。自らの手によるイラストは、童話に添えられているのと同じようにシンプルで愛嬌のある白と黒の絵。けれども描かれているのは恋愛、若き日の迷い、身辺雑記から少し不思議なSFっぽい出来事(『魔法ばなし』だけに)まで、実に多彩なのである。
「さあさ さあさ
いらっしゃい
魔法横町はこちらです
ここから歩いて
すぐのとこ
わたしが案内いたします」(『くんぺい魔法ばなし ねこのリボン』〈サンリオ〉)
そのライフワーク的な『魔法ばなし』が連載された「詩とメルヘン」の編集長は、やなせたかしであった。『くんぺい魔法ばなし 山のホテル』(サンリオ)に寄せられたやなせの回想を読み、あのアンパンマンの人かと少々驚いた記憶がある。(つづく)
【関連記事】東君平の連作詩・『へびとりのうた』『心のボタン』