【製作過程】
高橋P「最初は『デッド・ゾーン』(1983)の雰囲気や『メメント』(2000)、『バタフライ・エフェクト』(2005)のような倒錯したイメージを考えていました。長谷川さんが倒錯した方なので(笑)。
実際に未来をどう描くか悩んでいたところで、小中監督が救世主として参加してくださいました」
小中「長谷川さんが行き詰まったおかげで呼ばれました(笑)。当初のイメージはもっと壮大だったんですが、今回の企画では無理。そこで幸雄くんの個人的成長に集約させるやり方にして、空中に “アマテラス” が浮いていれば未来という一点豪華主義にしました。
衣装も色味を抑えて全体主義的な雰囲気を出した。昔の人民服というか(一同笑)」
白倉「軽トラックが、練馬ナンバーなのにキューンって(未来的な)かっこいい音を出してましたね(笑)」
東映の東京撮影所は練馬区なので、車も練馬ナンバーというわけである。
小中「あれは撮影所にあるトラックです。シナリオでは護送車だったんですが(笑)。排ガス規制の表示を美術スタッフがつくってくれた。今回はほんとにお金がなかった」
白倉「25年後の未来では練馬ナンバーのトラックが最先端の車かもね(一同笑)」
小中「予算は少ないが、映画的なつくり方をさせてもらったと思います。撮影所の底力ですね。町場でこの予算でもこの画はつくれない。
ぼくは予算の少ない作品が多い。お金をかけた映画はディテールに凝りますね。でも低予算の作品はメッセージを伝えられればいいと思うんです。大変な思いをしてくれたスタッフのおかげですね」
白倉「スタッフにお金を払わないというわけじゃない、多くないよというだけ(一同笑)。ボランティアじゃないですよ」
【ぼくとおれ】
主人公が運命と戦うことを決意するシーンで、一人称が “おれ” になっている。それまではずっと “ぼく” だった。
長谷川「一回だけ “おれ” にしたのは…多分意識しました(一同笑)。まあ成長みたいな? 内気な青年だったので男がここってときは、おれって言うよと…」
小中「全然気にしないで撮ってた(笑)」
白倉「最後にもう一度メインタイトル(ぼくが処刑される未来)が出ますよね。そこは “おれ” になるべきだったんですか。おれ、未来で、どんだけおれだ(一同笑)」
【過去の自分へ】
『ぼくが~』の主人公は25年後の世界で未来の自分に出会う。そこで御三方が、過去の自分に出会ったら、何を伝えたいかを語った。
長谷川「飲み過ぎて失敗する前のおれに会って注意したい。何度も失敗しました(笑)」
白倉「過去の自分にはあんまり会いたくないですが「お前、もう少し何とかしろ」って言いたい。
あと大人は子どもに「勉強しろ」ってよく言いますが、いいおっさんになってしまったいまは、本当に「勉強しろよ」って言いたい。本とか映画とかドラマとか見てきたつもりでも、もっと見ればよかったと。なんか、まじめな話になってしまいましたが(笑)」
小中「ぼくは25年前に『四月怪談』(1988)という作品で監督デビューしたので、今年はデビュー25周年なんです。そのとき、プロデューサーでビクターの製作部長だった人に「初心忘れるべからず」という言葉を贈られたのを思い出して、舞台挨拶のときの福士蒼汰くんへの手紙に引用させてもらいました。
あのときからやりたいことは変わらずここまで来ているつもりなので、25年前の自分に「初心忘れるべからず、がんばれや」と言いたいですね」
【最後にメッセージ】
白倉「最近企画の幅が狭まっているのを感じるので、今後もさまざまな試みを仕掛けたいと思います。スタッフの健康も心配ですが、死なない程度にがんばります(一同笑)」
長谷川「テレビと違って、映画はこうやってお客さんと会えるのがいいなあと。また何かあったらよろしくお願いします」
小中「25年間ずっとSFファンタジーをつくってきましたが、企画が少なくて苦労しています。
“HERO NEXT” はオリジナル作品ができる貴重な場ですから、ずっとつづいてほしい。これからもSFファンタジー作品が元気になるように力を尽くしたいと思います」
SF作品という、日本では主流とは言いがたいジャンルの現場の声が聞ける貴重なトークショーであった。和やかな雰囲気ではあったが「原作がないと映画がつくれない」「予算がない」といった厳しい話もあり、映画界の苦しい現状をしのばせた。