私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

寺田農 × 伊佐山ひろ子 × 岡本みね子 × 岡本真実 × 佐藤闘介 × 佐々木淳 トークショー “もっと、岡本喜八を!” レポート・『肉弾』『ブルークリスマス』(2)

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寺田農氏 (2)

寺田「岡本作品では、ぼくはほんとに放し飼いでしたね。『座頭市と用心棒』(1970)のときは(座頭市役の)勝新太郎さんがぼくの芝居に対して、それは違うだろって言った。当時のぼくは生意気だったから、監督に「勝さんがこう言ってますけど」なんて言ったら、監督は「農(ノー)ちゃんは好きにやれ」って。ぼくは得意になって「好きにやりますよー」って、勝さんは怒っちゃって(一同笑)。でも後で勝さんとも仲良くなって、何度も共演しましたね。

 監督に怒られたことは一度もないですよ。スタッフも、まあほとんどないんじゃないかな。怒鳴るわけじゃなく、それでいてうまーく人心掌握する。見事なリーダーシップでした」

 

 『赤毛』(1969)のスリ役の寺田氏は若くてハイテンションな印象で、近年の『仮面ライダーダブル』(2009〜2010)などにおける渋さとは別人のような気がするのだが、素の寺田氏は身振り手振りも交えた話術が面白く、40年前の『赤毛』とそう変わらないようにも見えた。

 『仮面ライダーダブル』や『仮面ライダーオーズ』(2010〜2011)などの田崎竜太監督からのメッセージも来ていて「岡本監督のカッティングセンスと画面構成には強い影響を受けました」「寺田さんとも、またご一緒できたら」というような文面であった。  

【岡本みね子氏】

 岡本作品のプロデューサーを務めた夫人の岡本みね子氏はイメージよりも若く見えた。既に73歳だとか。

 

みね子「私が早稲田大学の映研にいたころ、監督と会う機会があったんです。当時私はシナリオライターになりたかったんだけど、気がついたらこうなってた。

 監督は、やっぱり演出家なので人をよく見ている。うちにお客さんが来ていて、その人が帰った途端、ものまねを始めたり(笑)。人の特徴をつかむのが上手かったですね」

 

 東宝で映画を撮っていた岡本監督は『肉弾』(1968)で初めてインディペンデント系の映画製作に挑戦する。当時、勢いのあったATGに企画を持ち込んだが…。

 

みね子「『肉弾』では、何で(メジャー系の)東宝の監督がこっちで撮ろうとするんだってATGの人の反撥がすごくて。こっちのやる気を示す一万何千字の決意文まで提出して、やっとこぎつけたという感じで。スタートするまでにずいぶん苦労しました」

 

 やがて映画は斜陽産業に転落し、資金集めの苦労はつづく。197080年代には何度も家を抵当に入れた。

 

みね子「監督は、昔は全然お酒が飲めなかったのに、ある時期から急に飲めるようになって(笑)。酒がなかったら気が狂ってたって言ったことがありましたよ。映画監督にとって作品を撮れないのは失業してるみたいで、それくらいつらいことなんですね。

 『大誘拐』(1991)のときは、もうお金がなくて。竹やぶで1億円が見つかった事件があったでしょう。あのとき監督が「いま行けばまだあるかも」とか言うから「何ばかなこと言ってるの」と止めたんだけど、すぐあとでほんとにもう1億見つかって(一同笑)。

 『大誘拐』ではなんとか借金は返せたんだけど、次のアメリカ(で撮った『EAST MEETS WEST』〈1995〉)ではお金が入らなくて、すべて失い、家までなくなりました(一同笑)。

 いろいろあったけど私たちは反省はしても後悔はしてないんですよ(笑)。好きなことやって、振り返れば愉しい想い出ばっかりですね」

伊佐山ひろ子氏】

 『吶喊』(1975)などに出演した伊佐山ひろ子氏も、映像で見るより若い印象だった。個人的には『人形劇 三国志』(1982〜1984)の声の印象が強い。

 

伊佐山「『吶喊』では(主演の)岡田裕介さんとのベッドシーンを撮ってる間、岡田さんが上で、私が下で。監督やスタッフと岡田さんが打ち合わせしている間、私は横になってるからそのままうとうと寝ちゃって。で(カメラの)木村大作さんに「起きろ!」と起こされましたね(笑)。監督は全然怒らない人だから、怖いのは木村さんだけ(笑)」

 

 木村大作カメラマンは、最近は映画『剣岳』(2009)を監督している。ちなみに岡田裕介氏は、いまは東映社長。

 

伊佐山「監督は、照れ屋で女の人が苦手な感じでしたね」

みね子「あなたのことは、すごく気に入ってて。来るってだけでそわそわしてたよ(笑)。(客席を見て)きょうもこんなに女の人が来てくれて、だいたい監督のファンて黒っぽい客層だから(笑)本人も向こうで喜んでますよ」(つづく)