私の中の見えない炎

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中島丈博 × 野上照代 トークショー レポート・『首』(1)

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 映画『七人の侍』(1954)や『生きる』(1952)、『上意討ち 拝領妻始末』(1967)、『日本のいちばん長い日』(1967)、テレビ『私は貝になりたい』(1958)など綺羅星のごとき作品で知られる脚本家・橋本忍。その橋本が実在の弁護士・正木ひろしをモデルに描いた『首』(1968)のリバイバル上映とトークショーが東京・神田にて行われた。

 

 1943年の冬。弁護士・正木(小林桂樹)のもとに、ひとりの鉱夫の死についての調査が持ち込まれた。診断書には脳溢血が死因だとあったが、正木は拷問によって殺されたのだと疑いを抱く。そして殺人を証明するために、正木は驚くべき賭けに出るのだった。

 

 トークは橋本に師事した脚本家の中島丈博と旧知のスクリプター野上照代によるもので、橋本をよく知るふたりだけに忌憚のない内容となった。聞き手は田中貴大氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

複眼の映像 私と黒澤明 (文春文庫)

複眼の映像 私と黒澤明 (文春文庫)

 

中島「最初は封切り時に見て、それから池袋の文芸坐で。橋本さんの特集上映があって」

野上「私は森谷さん(森谷司郎監督)の1本目かと思ってたら、1本目は『ゼロ・ファイター大空戦』(1966)。それで『続 何処へ』(1967)、内藤洋子の『育ちざかり』(1967)、『首』、『兄貴の恋人』(1968)。黒澤(黒澤明)さんの助監督で、他に大森(大森健次郎)さんと出目(出目昌伸)さん。3人とも亡くなっちゃいましたね。森谷さんは最後までいろんな企画持ってて惜しかった。改めて見て、森谷さんは長いシナリオよくやったなと」

 

【『首』について】

中島「うまいですね。俳優さんもすごくいい。神山繁が素晴らしい演技してて、ふるいつきたくなった(笑)。それと南風洋子さん。地味な人ですけど、これは助演賞くらいの存在感で有効な役柄をしてる。男のような顔だけど、鉱山主って役にぴったり。このふたりがよかった。小林桂樹はさておき(笑)」

野上「森谷さんがうまい。このホンは難しい、台詞で説明してるから。橋本さん、ナレーション好きだから。理詰めが多いのよ(一同笑)」

中島「ぼくが橋本先生のところにいたときの後の作品で、関与してないんですが、東宝の助監督に脚本書けって言ったそうですよ。書いてきたのは森谷だけ。その熱意に応えて、『首』のシナリオを書いた。だから、ぼくはてっきり第1回監督作品だといまのいままで思い込んでた」

野上「『首』については(東宝の)文芸部だった田中収さんに電話で話聞きました。詳しく知ってらした。訂正させてもらうとね、田中収さんに直接聞いた話では、『上意討ち』のころに森谷さんはホン書いたんじゃなくて、この企画をやりたいと。橋本さんにホン書いてもらいたいということで、田中友幸に橋本さんに会わせてくれと頼んだ。田中友幸は、こんな企画絶対失敗するって大反対。森谷さんはホンじゃなくて企画を持ってったと、収さんは言ってました。

 シナリオハンティングで橋本さん、森谷さん、田中収さん、田中友幸さんは墓場へ行ったそうですよ。墓の近くで森谷さんが収さんと企画について話してたら、いきなり橋本さんが“やかましい、静かにしろ!”って怒鳴ったのを覚えてるって(笑)」

中島「(劇中の)小林さんみたいね。ひとりにしといてくれって(笑)」

野上「正木さんの原作だからもっと政治的な話かと思ってたの、小林多喜二みたいな。正木さんは、私子どものころから知ってます。父親の関係で。政治的な事件にしなかったことで、警察やらの仕組みがはっきりしてよかったなっていま見ながら思いましたよ。政治的なことにしたら説明になる。結構当たったんですよね、これ。面白く撮ってますよ」

中島「首切りをやった人が、電車でこれは人間の首だって言う」

野上「黒澤さんの手法ですよ。本当のことを言ったら(相手は)疑わない。何回か使ってますよ。思い出してください(一同笑)。『隠し砦の三悪人』(1958)でもどうやったら抜けられるか、橋本さんとかが考えて、そしたら小國(小國英雄)が金の延べ棒だって(本当のことを)言う。すると誰も信じない。そんな嘘をと。性善説よね」

中島「それ(車中の出来事)があったから、小林桂樹が首をそのまま持ってると思うよね。上野で…。それが日暮里で降りた男が持ってた。あそこも巧いですね、サスペンスとして」

野上「ほう、なるほど(一同笑)」

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中島「ホンの通りです。長いホンを読んで、5時間くらいになるんじゃないかと思った。でも政治的なものは入れないで、社会の仕組みが判る。森谷さんも工夫したかもしれないね。ホンの通りだけど。助監督としても優秀で」

中島「橋本さんのドラマツルギーでは、日常から始まる。『上意討ち』も武士の日常から始まって、だんだん深刻に。今回も解剖で済むって始まって、だんだん死体が腐れば心も腐るって言い出して。いい展開ですね。

 首にこだわるのは橋本先生らしい。浄瑠璃が好きで、その手法を好んでます。浄瑠璃はぱーんと首がすっ飛ぶとか人体破壊的なのが多くて、そこからの触発がある。社会派的な側面と生理的な人体破損物語とが両方あって、いい効果を上げてると思う」

野上「最後の瓶に入ってる首の印象は強い。首っていうショッキングなものを使って」

中島「目を惹きつけるシチュエーションを繰り出して、職人としても巧いなあと」

野上「(ラストの法廷での出刃包丁のシーン)ホンに確かに書いてあったね」

中島「八海事件の裁判のシーンをやってる。戦前戦後を通じて、権力は変わってないということ」

 

 中島氏は、正木ひろしのような実在の人物を存命のうちに扱ったことはないらしいが、モデルにしたことはあるという。

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中島「実在性のある人や家族をモデルに脚本にすることは何回もありましたけど、ぼくはまず遠慮しない!」(つづく

 

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