私の中の見えない炎

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シンポジウム “敗者たちの想像力 いま山田太一ドラマを再発見する” レポート (1)

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 日本を代表する脚本家・山田太一先生は、もう評価などされ尽くしているような気がしていたけれども、実は山田作品の研究書というのは少なく、ファンはやや淋しい思いをしていたものであった。だが昨2012年に、長谷正人『敗者たちの想像力 脚本家 山田太一』(岩波書店)が刊行され、山田作品を“敗者”というキーワードから読み解く作家論であり、大変読みでのある著作であった。

 刊行を記念して、2012年7月28日、早稲田大学文化社会研究所にてシンポジウム『敗者たちの想像力 いま山田太一ドラマを再発見する』が開催され、筆者ももちろん足を運んだのだが、いろいろあって(?)今さらの記事化である。

http://www.kikou.waseda.ac.jp/WSD312_open.php?KikoId=01&NewsId=253&kbn=0

 著者の長谷正人・早稲田大学文化芸術学院教授、山田太一先生、演出家の河村雄太郎氏ら6人の方々が出席されているが、字数の都合上やむを得ず、山田・河村両氏の発言に限ってレポしたい(メモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや、整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

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 山田太一先生と河村雄太郎ディレクターが組まれた作品でよく知られているのは、『早春スケッチブック』(1983)。

 平穏に暮らすひと組のステップファミリー岩下志麻河原崎長一郎鶴見辰吾、二階堂千寿)の前に突然現れたミステリアスな男(山崎努)。

「ありきたりなことを言うな。お前らは、骨の髄までありきたりだ」

 長男(鶴見)の実の父親を自称する彼の出現に一家は揺れ動くが、実は彼は病に冒され、余命わずかであった。

 この作品は、山崎努演じる男の存在によって「庶民を批評する」という意図でつくられたそうだが、最終回まで見ると、冴えない感じに見えた平凡なお父さん(河原崎長一郎)がかっこよく映るようになる。

 山田作品は、テーマが論じられることが多いけれども、実はエンターテインメント性も高い。全般に重たいトーンの『早春』でも、山崎の年若い彼女(樋口可南子)も交えてミステリー風に物語を引っ張ったり、ふたりの男(山崎、河原崎)の応酬でコメディ調になったり、長男につきまとう不良少女(荒井玉青)のシーンでは青春ドラマのタッチになったりと、見る者を飽きさせない技が繰り出されている。 

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【『早春スケッチブック』の想い出】

 『早春』第3話の上映後、「視聴率は悪かったですが、この作品で人生が変わったという人もいます」と長谷正人さんが口火を切った。

 

山田「視聴率が悪いってのは名誉かもしれないですね。市川(市川森一)さんの『淋しいのはお前だけじゃない』(1982)も悪かった(笑)。

 この頃はフジテレビ天国の時代です。連続(ドラマ)を書かないか、何書いてもいいからと言われて、すごく張り切りましたね。ぼくは電車が好きなんですが、ポルノ映画の『痴漢電車』というのがあったから電車は貸さないと言われて、京王線相鉄線だけ貸してくれて。

 横浜からひと駅ずつ降りて歩いて、すると希望ヶ丘があった。なんて嘘っぽい名前、現代のいちばん薄っぺらなところが現れていると(一同笑)。で、そこを舞台にしました」

河村「当時は、ドラマと言えばTBSとNHK。フジはとにかく、山田太一を獲得することが至上命令でした。タイミングが良かったし、山崎努さんも他に考えられない。ディレクターとして幸運でした」

 

 山田先生を初めてフジテレビに迎えた作品だったが、視聴率は低迷。

 

河村「営業の連中に廊下で会うと、にやっと笑われる(笑)。でもあの頃は、あまり言われませんでした。

 この作品はスタッフの団結もすごくてね。岩下志麻がベッドから写真集を取り上げるシーンのために、クレーンをバラエティ班から借りてきてくれた。(クレーンを使うと)セットをばらすのも大変。でも岩下さんもスタッフも、文句を言わずに待ってた。現場は張りつめていました」

 

山田「志麻さんは普通の奥さんもやれなくもない。やくざのおかみさんもやれる(笑)、ちょうどいいですね。

 長一郎さんは(劇中で飲めない設定だが)実は結構お酒飲みで、役者さんって感じの荒れ方もなさる(笑)。でも出てきただけでは、いかにも普通の人なので、素晴らしいですね。ぼくは長一郎さんが好きで、いろいろ出ていただきました」

河村「(飲めない設定なのに)いい匂いで現場に来たこともありました(笑)」

山田「(平凡なお父さんの河原崎と危険な山崎との)対比は、少ししつこかったかも。いまだったらもう少しさらりとやるかな(笑)。いま書いたら、相当違うドラマになりますね」

河村「大人4人(岩下、山崎、河原崎、樋口)のキャスティングは、山田さんの指定がありました。若い人はオーディションです。

 彼と彼女がどうしたとか、ストーリー中心のドラマが多かった。でもこの作品では、台詞の重みを初めて実感しました。第8回の山崎さんの“偉大という言葉が似合う人生もあるんだ”とか」

山田「ぼくは、寺山修司さんが(早大の)同級生で、いろいろあって、このドラマを毎週見てくれていて。打ち合わせしてても“ああ、山田のドラマの時間だ”と言ってたと。それで、自分は山崎努で、ぼくは河原崎長一郎だと言い出して。ぼくとしては、おれが書いたんだから両方おれだよって(一同笑)。

 この後の『ふぞろいの林檎たち』(1983)では、うちの天井桟敷の大事な子だって、高橋ひとみさんを紹介してくれて…。第1回の本読みは、寺山がやってくれた。寺山は非日常を愛する人でした」(つづく) 

早春スケッチブック (山田太一セレクション)

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早春スケッチブック DVD-BOX

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