——一方で、子ども向け番組では避けられがちな、殺人や流血描写もきちんと出てきます。
高寺 確かに意識してやっています。人は本来、仲良く争わずにいたほうがいいのに、そうできないことがある。実際に拳を振るわなくとも、それは暴力になっていたりします。人を傷つけようとする心を人は生まれつき持っていて、それに対して人はどう接していったらよいのか、を描こうと思っています。
入社して14年間キャラクター・ヒーロー番組の周辺にいて、自分でしっくりこなかった部分もあったんですよ。戦って強くなったらそれでいいんだろうか、と。それは喧嘩して強くなったということなんですが、それで人間的に成長したと言っていいのか、と。敵が強くなると、こっちもパワーアップしますよね。大げさに言えば軍拡競争なんですよ。これで取り戻した平和というのは、悪がいなくなったということではあるんですが、それでいいんだろうか、と。ほんとうなら、それによって人として背負っていくものはあるはずで、そういう意味では成長なんですが、描き方として「バンザーイ!」や「やったー!!」じゃないはずだって。BGMにファンファーレはかからないはずなんです。
——うーん、それはじつは、先ほど話題に出た『バットマン』と同じように、現代におけるヒーローものの在り方を一から考え直すということですよね。
高寺 それをやらないと嘘になると思ったんです。「仮面ライダー」というヒーローものの代表作に触れるとき、そうしたヒーローの存在そのものを考えないと意味がない。とにかくわれわれが携わろうとしているのは、現にヒーロー番組なのであって、だからこそ、ヒーローとは何かをきちんと考えないといけないんじゃないかって。
これは変身ヒーロー番組に携わっている人たちのストレスであったと思います。そこにメスを入れないと作れなかったんです。荒川(引用者註:荒川稔久)さんや文芸スタッフが、やはり同じような問題意識を持っていらっしゃったということですね。
とくに東映の場合、ヤクザもの、アクションものを得意とした土壌がありますから、メッセージ性よりは、ヒーローがチャンバラ的に立つ、けれんのほうが優先される。そこにもちょっとだけ、挑戦してみたいというのがありました。
(2)製作現場は新しい試みにウズウズしている
——ハイヴィジョンのビデオ撮影にしたのはなぜですか。
高寺 「「仮面ライダー」って例のあれでしょ」という先入観をとにかく払拭したかったんです。表面的なイメージなんですが、「フィルム撮りのなんとなく泥くさいあれ」っていうイメージがあるじゃないですか。それをなくしたかった。「仮面ライダーだから見なくていいや」と思われるよりも「なんだろうこれは」って思わせたい。だからビデオ映像にしちゃったんです。
仮面ライダーと言っても、要するにカッコいいヒーローであればいい。絶対に外せないのは、おそらく、バイクに乗っていること、ベルトをつけて変身することぐらい。だったら、それ以外のことは無理にでも変えたほうがいい。そのほうが、現代のテレビというメディアの中で、新しい仮面ライダーが迎えられる場所を作るにはいいんじゃないかと。
——ビデオ撮影になって、現場も大きく変ったと思いますが。
高寺 メリットとしては、ビデオになったことで、外部の新しい技術を持ったスタッフに、多く参加してもらえたということがあります。東映のスタッフと混成チームを組んで、それで1年間番組をまわしていくというめずらしい編成なんですが、それによって、今まで発想し得なかったアイデアがどんどん出ています。ビデオの機動性を逆手に取ったカメラワークやライティングも、どんどん工夫されてきています。
——それは見ていてよくわかります。じっさい毎週楽しくてしかたがないんですが、必ずそれまでにない画づくりを試していますよね。15~16話でトラック運転席の怪人がつねにぴかぴか光っていたりとか、18話だと、グロンギの3人がすっくと立っているのを、陽炎のようにぼかして撮っていたりとか。
高寺 『クウガ』の場合、もともと、1~2話のシナリオを作る段階から、笑われちゃうかもしれませんが、本気でハリウッド・テイストということを言っていたんですよ。とにかく手加減していてもしょうがない。だって、見たいものは何かと言われたら、どこかで見たことのあるチープなヒーロー番組ではなく、ハリウッド映画みたいなスゴイ作品ですよね。1話の遺跡発掘現場や、長野県警の1階エントランスとか、2話の教会とか、大がかりなセットを作ったのもそのためなんです。
——警察署玄関の大ホールに車が突っ込んできて銃撃戦になったり、教会が炎上したりというシーンですね。あれはほんとうにすごかったです。
高寺 「戦隊シリーズ」では、巨大ロボットの変形や合体の視覚効果にお金をかけるんですが、クウガは等身大のヒーローなんでセットにお金をかけようと。みごとに大赤字でしたけど…。
——玄関ホールで大きな見せ場があって、さらにそのあと、空飛ぶヘリコプターにぶら下がっての攻防がある。見せ場がひとつで終わらないこと自体、まるで『ダイ・ハード』みたいというか、ハリウッド映画的ですよね。ふつうだったら玄関のシーンで終わりでしょう。
高寺 それで1話も2話もかなり尺をオーバーしてしまって、編集段階でバサバサと切っています。“完全版” を作れるぐらいですね。(つづく)
以上 “SFオンライン41号”より引用。
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