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山田太一 × 荒井晴彦 トークショー レポート・『無法松の一生』(3)

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寺山修司山田太一

 山田太一先生と学生時代に交友のあった故・寺山修司との書簡集『寺山修司からの手紙』(岩波書店)が、昨年出版された。

 

山田「田中未知さんがいろいろ持っていらして、本にしたいと。寺山のところも含めてダメと、ぼくが言うのは…。もうちょっと、それこそ検閲するべきだったかな。ぼくが、自分のはなるべく少なくと。寺山のものが見たい人は、ぼくのが入ってれば不愉快だろうって」

荒井「その遠慮は何なんですか」

山田「劣等感です(笑)」

荒井「呼び捨てのときと、さん付けのときがありますね。あとがきでは、寺山さんと」

山田「若いときの友だちは呼び捨てにしないものでしょう」

荒井「まして相手が死んでると。それはぼくも勉強しなきゃな」  

 寺山脚本の映画『夕陽に赤い俺の顔』(1961)では、山田先生が助監督を担当。

 

山田「ぼくはショックでした。入社して2年目、いちばん下っ端でカチンコやって走り回って。横浜の団地のロケで寒くて。集会に使うところに俳優さんはいて、自分のシーンが来ると出てくる。ぼくが迎えに行く役で、パッとドアを開けたら正面で寺山がストーブにあたっていて。ぼくのひがみですけど、この前まで「おい」とか言ってたのに、俳優さんに囲まれてベストポジションにいる。寺山も困ってて」

荒井「おい山田、とは言えない?」

山田「ぼくも若くて余裕がなくて。「○○さんと××さん、出番が来ました」って言って。すぐドアを開けて、寒いところで待っていましたね。

 彼はほんとに天才肌で、私はのろのろ凡人の自己形成をしてきた。とても天井桟敷みたいな、ああいう華やかさは(自分には)ない。ああなりたいとも思わない(笑)」

荒井「それは作風の違いですね」 

 

 山田先生の代表作『早春スケッチブック』(1983)は、平凡な市民(河原崎長一郎)と市民社会の批判者(山崎努)とを描く。寺山修司も見ていたという。

 

山田「寺山は途中から山崎努が自分だと思ってるところがあって」

荒井「でも山田太一表現者で、寺山が山崎努で生活者の河原崎が山田ってわけではない」

 

 1983年3月25日に最終回が放送され、その年の5月4日に寺山は逝去。

 

荒井「(最終回で)山崎努を死なせたのは、寺山修司とからめたんですか」

山田「寺山が死ぬなんて考えてなかったですよ。あれは最後に山崎が死ぬ話って言ったら、そうだろうって。判っていたんでしょうね。」

荒井「ドラマをきっかけに、またつき合いが?」

山田「急に縁ができて、ばったり会うとかありましたね」

荒井「寺山さんは、山田さんの奥さまのことが好きだったと(笑)」

山田「ぼくは学生のころ、いろんな人を好きになって。単数でなく(笑)。ただ寺山もぼくも相手にされませんでした。やっぱり、そんなに面白みのある学生じゃなかったですよ」

荒井「(『寺山修司からの手紙』によると)すごい読書量ですよね」

山田「ほかに能がなかった(笑)」

荒井「きょう喋るんでいろいろ勉強してきたんですが、山田太一寺山修司は『無法松の一生』(1943)よりずっとおもしろいですよ(笑)」

【過去の山田作品について】

 『ふぞろいの林檎たち』シリーズ(1983〜1997)のタイトルの由来について、質問があった。

 

山田「タイトルはみんなで考える。ぼくじゃなくて誰かが「ふぞろいな林檎」っていうスナックがあるという話を雑談でして。あ、それいいって。うまくいった作品は、あれ考えたやつはおれだって人がたくさんいる(一同笑)。要するに粒ぞろいの反対で、東大とかそういうのからこぼれた人のほうがチャーミングだよって。粒ぞろいの人は昔からすごくて、綺麗な人はずっと綺麗。でもうまくいった話はつまらない。それよりコンプレックスやマイナスを抱えた人がずっと面白い。面白いやつのことを書こう、と。

 きのうかな、林真理子さんがビューティーコンテストは順調な人だけではなくて、大変だって話をしてて。立ち入ってみると東大生だって大変だけど、マイナスがないと話が進まない。全部うまくいったら1回で終わっちゃう(一同笑)」  

 つづいて『男たちの旅路』シリーズ(1976〜1982)について。

 

山田「松竹の映画はホームドラマで『男たちの旅路』のような職業ドラマはあまりなかった。松竹映画のいい男は柔らかい人で、『男たち』の吉岡司令補(鶴田浩二)みたいな硬派の人はあまりいなくて。軍隊の経験があるとか。鶴田浩二は軍隊経験がありますから。この人は、やくざも軍人も似合う。でも現代に軍人はいないし、刑事かなって思ったけど、NHKでは差し支えが出てきて綺麗な話になっちゃう。何かないかと思ったら、そのころ少し出てきたガードマン。NHKもそのころ3社と契約していて、そこに取材させてもらって。

 戦争で同世代が死んでいて、残った人が戦後を謳歌しない。そんな人がひとりくらいいてもいいというストイシズム。(主人公は)若いやつが大嫌いで、それとの関係を書いていこう、と」

 

 蛇足だが、映画館の向かいに「ふぞろいの人妻たち」という店があり、来たときは目に入らなかったので驚いた。山田先生もお帰りの際に気づかれたかな。

 

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