私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

村川透 トークショー レポート・『白い指の戯れ』(1)

 19歳のゆき(伊佐山ひろ子)は新宿の喫茶店で出会った青年(谷本一)と交際していたが、彼は警察につかまってしまう。その彼を知っているという別の謎めいた男(荒木一郎)が現れ、主人公は不思議な魅力を感じる。男はスリグループを率いていた。

 『最も危険な遊戯』(1978)や『蘇える金狼』(1979)、『野獣死すべし』(1980)など松田優作主演の映画を手がけ、近年も『さらばあぶない刑事』(2016)やテレビ作品を撮っている村川透。そのデビュー作が日活ロマンポルノの異色作『白い指の戯れ』(1972)である。

 5月に阿佐ヶ谷でリバイバル上映と村川監督のトークが行われた。『映画監督 村川透 和製ハードボイルドを作った男』(DU BOOKS)の山本俊輔・佐藤洋笑両氏が聞き手を務める(イカのレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

【『白い指』の企画段階】

村川「最初の作品ですから(見直すと)拙さとか人生の皮肉とか運命とかを自分の中で処理しなくてはならなくて。いまさら何も言うことはないですね。50年も経って、映画好きのみなさんに見ていただけて、みなさんの気持ちがこの場に充満してますし。来ていただいて光栄で幸せです。何と申し上げていいか判らない嬉しいような、悲しいような…。どうもありがとうございます(拍手)。

 田舎から出てきて変わっていく自分というのがあったんですが、映画界に入ってつくろうと思ったときには観客数が多かったころで。入って、ものすごく苦労して、その間にテレビという怪物が出てきて、ただで見られる映像で映画は太刀打ちできない。そんなころに日活ロマンポルノとの運命的な出会いがありまして、人生の皮肉というか素晴らしさというか。

 外国のロベール・ブレッソンの有名な『スリ』(1959)なんかを見ててやりたいなというのもあって、自分は男ですから女の人というのもありまして。荒木一郎くんを見初めて絶対に使おうと。女優さんを誰にしようかとか…走馬灯のようにめぐります」

【冒頭のシーン】

 序盤に主人公が登場してレッカー車を見て喫茶店に入っていくシーンは、不本意だという。

 

村川「きょう見ていて苦言ではないですが、私の知らないうちに頭のほうは違ったカッティングになってますね。(長回しのはずでレッカー車を)彼女が見送った後で悲しそうな顔をして、都会にひとりぼっちでいることを感じて歩いていく。喫茶店に入ってすわるとモーツァルトの「クラリネット五重奏曲」がかかって、芸大を出たうちの兄貴(村川千秋)が世界を回って帰ってきたころで、彼が学生たちと録った曲を使おうと思ってました。兄貴だからただですし(笑)。ずっと長回しでトイレに行って帰ってくると「五重奏曲」の一楽章から二楽章になって、10分ぐらいあるシーンを撮りました。(撮影の)姫田真佐久さんと打ち合わせをして、ワンロールがまるまるなくなるぐらい。音楽も何もかも全部つながってて面白かったんですが、ずたずたにされて何が何だか判らないようになって。(冒頭が)後で効いてくるのに「そんなのいらねえ」と。おれはあんまり日活の言うことを聞かないほうだったから、そういうこともあって権力によって(笑)。本当は許されないことなんですけど、それも運命だと思ってる。

 時間さえあれば街を歩き回って、どういう景色があるか。恵比寿、渋谷、新宿、原宿、横浜。癖のように歩くのが得意で、今回は最初だったこともあって特に(ロケ地が内容に)フィットしたと思います。今回の姫田さんもその後もカメラマンに恵まれて、カメラさんの感覚とおれの感覚とで変わることがなかったです」

 

 冒頭だけでなく、劇中にレッカー車が何度か出てくる。

 

村川「車もできたときももちろん綺麗だったんでしょうけど、いろんなヒストリーがあって無残にもぶつけられたり。(主人公は)それがかわいそうだってふっと自分に置きかえるような純な女の子。人生の皮肉でもあるわけですね」(つづく