私の中の見えない炎

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是枝裕和 × 大島新 × 鈴木あづさ トークショー レポート・『反骨のドキュメンタリスト 大島渚「忘れられた皇軍」という衝撃』(3)

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【大島新映画と大島渚

鈴木「新監督にお伺いしたかったんですけど、大島渚監督はドキュメンタリーとは一人称であるべきで主観的につくれよ、お前はどう見たんだというのを出せとおっしゃってますけど、新監督もご自身で出ていらっしゃいますね。渚イズムを継承しているということでしょうか」

大島「スタッフには出たがりだと言われるんですけど(一同笑)。いろんな手法があって、フレデリック・ワイズマンとか想田和弘監督とかのようにディレクターの存在を消して被写体を淡々と見せるという形も素晴らしいですけど、あたかも完全無欠の事実のようにとらえられてしまう。私はそれが恥ずかしいんですね。カメラが入った時点で現場はもう異常な情況なので、異常な情況で切り取られたものですよって説明するために私が映り込んでるっていうのはありますね」

是枝「……その通りだと思う(一同笑)。牛山純一が記録は誰かの記憶だよ、署名のないものはインチキだっていうようなことを言ってましたよね」

大島「詠み人知らずではいけないと」

是枝「初めてNHKで仕事をしたときに映るな、映ってるカットはなるべく削れって言われた。一人称のナレーションもやめてくれ、自分で読むって言ってもだめだと。主観性を排除することで客観性を担保する考え方。私って言いすぎるのを警戒するのは当然だけど、そのことでディレクターの保身になってる気がする。

 劇映画をやって以降、ドキュメンタリーはあまり撮ってないけど、ドキュメンタリーをやると自分の眼でしか撮れないって思うじゃない? 客観性とか事実って何? ファインダーをのぞいた時点で自分が撮りたいものを囲って、その外を棄てるわけ。フレーミングの行為自体がフィクションで、それに大島新さんも話されたように取材者が参加した時点で情況は変わってしまう。むしろカメラがあって変わったということを撮るのは誠実なスタイルではないかと、両方やってみて何となく理解したな」

大島大島渚は取材することによって、取材している側にも変革が訪れて、そのことも含めて記録するのがドキュメンタリーだと言ってますね。私は平井卓也さんにPR映画だと言われて(笑)」

鈴木「『香川1区』(2021)によって変革が起きてますね。小川淳也さんも有名になって」

大島「狙っていたわけではないですが、起きてみると不思議な気持ちですね。世の中に小さな影響を与えて、私も変わったりするわけでひとつのドキュメンタリーでこういうことが起こる」

【是枝映画と大島渚

大島「『万引き家族』(2018)をつくられたときに大島渚の『少年』(1969)は頭の中にあったんでしょうか」

是枝「ありました。最近、小山(小山明子)さんと手紙のやり取りをしていて。すみません、息子さんの頭越しに。『海街diary』(2015)の上映会が鎌倉であったときに見に来てくれて、それから時候の挨拶をさせていただいて。きょうのこともご連絡して」

大島「あんたから聞かないのに是枝さんから聞いたって言ってました(一同笑)」

是枝「『万引き家族』のときに出発点は『少年』なんですって、書かせていただきました」

大島「全然違う映画ですが、心ならずも犯罪を生活の糧にする子どもという」

是枝「大島さんとはタイプが違うと思われるかもしれませんけどテレビなら『忘れられた皇軍』(1963)、劇映画なら『少年』というのが自分にとって大きな存在」

大島「『少年』は大島渚の代表作って挙がるわけではないですけど、好きって人は多いですね」

鈴木小山明子さんの鬼母と『万引き家族』で安藤サクラさんがなさった妻とは、イメージが重なるようなそうでないような」

是枝「安藤さんの母親も世間的には鬼母って言われるよね。『誰も知らない』(2004)のYOUさんも」

鈴木「是枝さんの描く女性像は優しさがあって、大島さんの女性像と相通じるように思います」

大島「でも大島渚は、是枝さんのように俳優を上手く使ってなかったという気はしますね(一同笑)。大島渚って劇映画でも自分の言論をやってるようなところがある」

是枝「大島さんは、ワンテイク目がいちばんいいって言ってるよね。ワンテイク信仰。芝居を練ってつくっていくということと映画とが近いとは考えていなかった」

【最後に】

鈴木「『香川1区』で小川さんが、ある政治家が51対49で勝ったとしたら残りの49を背負わなきゃいけないとおっしゃってます。2013年に是枝さんがインタビューで、政治家が6割で勝ったら残りの4割にどれだけ想像が馳せられるか、それが政治家たらしめるとおっしゃってました」

大島「私じゃなくて小川さんが言ったんですが。もちろんシンパシーはありますけど。是枝さんは、この番組では8割と2割とおっしゃってますね(笑)」

是枝「多数の側にいたこともないけど少数の側にいるというよりは、放送に関わる人間としては8割の声が通ったとしたら常に2割に耳を傾ける作業が必要だと思っていて。声にならない声を声にしていく。いまの政治は2割を反日やあの人たちと呼ぶ。そういう分断統治をするので、メディアが抵抗しなきゃいけない」