私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

井上陽水 インタビュー(2001)・「UNITED COVER」(3)

――おいくつぐらいの頃なんですか。

 

井上 これはもう僕が小学校ぐらいの時? ちょっとはっきりしませんけど中学生ぐらいかなぁ。まあそれぐらいのところで。

 で、これはもうお分かりいただけるかどうかわからないんですけど、「歌謡曲ぅー」っていう感じで僕ら聴いていたんですよね。それはなんでそういうことかっていうと、もうしょっちゅうテレビで聴くことができましたし、それから西郷輝彦さんは、橋幸夫さんとか舟木一夫さんで “御三家” なんて言葉がね、当時、初めてかどうか知りませんけど、初めてっぽいような感じで。あれからずいぶんまあ御三家っていうのは…。そういう意味でも「歌謡曲ぅー」っていう感じがすごくしてたんですけど。

 で、「歌謡曲ぅー」っていうことってどういうことかっていうと、多くの人が好んでその曲を聴き歌ったっていうことなんですけど。そのことっていうのは僕にとっては、ちょっと興味が薄れるようなところもあるんですよ。

 それはやっぱりもう数あふれてるから、聴くこととか、楽しむとか、友達が歌っているとか、雑誌を見るとかいろんな、もうあふれてますから、その “あふれ具合い” にちょっとこう、ある新鮮さ(笑)というものがなくなって…。「旅人よ」とか「星のフラメンコ」っていうのはそういう具合いなんです。

 

 コーヒー・ルンバ

――「コーヒー・ルンバ」は、もう少し古いですが。

 

井上 もちろん正確なことは音楽評論家とか、音楽の歴史をつぶさに調べているわけではないからはっきりいえませんけど、僕の印象をいえば、僕らの世代だと70年安保っていうのが学生たちを中心として政治的にある盛り上がり、ムーブメントなんかあったんですけど。それでもうひとつ前の世代の60年安保っていうのが、これはもう子供心にぼんやり分かってんですけど、樺美智子さんなんかがデモに参加して亡くなられたなんていうこともあったりして。

 ちょうどそのころのそういう学生運動とかあると、ある歌手とかある曲が、なんていうんでしょう、そのグループの愛唱歌になるっていうか、心の支えになるっていうか、慰めになるみたいなことがあると思うんですけど。その時に西田佐知子さんの「アカシアの雨に打たれて」っていうタイトルの、たぶんその歌がそうだったって聞いてますけど。

 その西田佐知子さんの「コーヒー・ルンバ」なんていうのも、きっと「アカシア~」よりも前にあったと思うんですけど。それはなんとなく僕も覚えていたんですよね、それはちっちゃいころテレビでも見たのかもしれないですけど。

 で、それはなんとなく覚えてて、ギターで自分で歌ってみたんですけど、これすごい詞なんです。すごい詞っていうか、曲と詞は誰が書いたのかまだわからないんですけど、きっと外国のメロディーで、曲で、日本の方が訳詞をしたんじゃないかなと今のところ思ってるんですけど。

 いやぁ、参りましてね、すごい詞だなぁと(笑)。「昔アラブの偉いお坊さんが」っていう入り方を、今、日本にいろいろミュージシャンとか、作詞家いますけど、だれがこんな切り込み方ができるかっていう思いに駆られまして(笑)。一本とられたっていうような思いで聴いたんですよ。それで「これはいい」っていうことで歌ってみたらやっぱりすてきな曲で。いやいやいやいや、と思って。

 そしてこの機会に、改めて西田さんのレコードっていうかCDで、その曲を久しぶりに聴いたんですけど、最近はいろいろテクノロジーの発達とかそういう時代になってきていますから、そういう時代に西田さんの「コーヒー・ルンバ」を聴くと、様々な意味で “正確” にはしてないところがあって、ホッと心が洗われるっていうか、本来の「私たちは人間である」っていうことをね、改めて教えられるっていうか、心のよりどころみたいな。ぜひ聴いていただきたいと思います。

 

 白紙に戻った時代

――ペギー葉山さんの曲についてもいろいろと思いがあるとか。

 

井上 僕は、どういうわけか太平洋戦争が終わった直後の状況、日本の状況っていうのに興味があって大好きで。大好きっていうのは、見たり聴いたりすることが。特に進駐軍のキャンプなんていうところはなかなかね、情報がないところですから。ペギーさん、その中にいらしたわけですから。もうホントに興味深く。それは芸能っていう観点からもね、それから生活、風俗っていう観点からも、ワクワクしながらいろんな話を聴かさせていただきましたよね。つづく

 

 以上 “Yosui Magazine” より引用。

UNITED COVER (Remastered 2018)

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