月刊誌「アニメージュ」には、詳細なロングインタビューが載った。脚本家デビューのころについても語られた貴重な内容である(聞き手は小黒祐一郎氏)。
——ずっと前から浦沢さんって、どんな人なんだろうって気になっていました。『新ルパン』の時からのファンなんです。
浦沢 僕のデビュー作ですよ。
——ええ。「カジノ島・逆転また逆転」ですよね。それ以前の事から、お伺いしたいんですけども。そもそも、脚本家を志していたんですか?
浦沢 いえ、脚本をやる前は『カリキュラマシーン』のギャグを考えてたんです。『ゲバゲバ』や『カリキュラマシーン』のギャグを作る事務所があったんですよ。最初はそこの原稿運びをしていた。
——高校を出て、そこの会社に。
浦沢 いや、その前にゴーゴーダンサーをやっているんです。
——ゴーゴーダンサー?
浦沢 そうそう。
——(笑)。ちょっとすみません…その、ゴーゴーダンサーって、職業なんですか?
浦沢 いえいえ。職業というか…ダンサーをしていれば、タダで、そういう場所に遊びに行けるじゃないですか。それでやっていたみたいな。
——今で言うと、ディスコクイーンみたいなものですかね。
浦沢 まあ、そうですね。踊りながら、お客さんを接待したりするの。
——ゴーゴーを踊りながら、「イエーイ」とか言って、飲み物とかを出すわけですか?
浦沢 いや、もっとくら~い感じでやってたけど。
——場所は、ゴーゴー喫茶ってやつですか?
浦沢 そう、ゴーゴー喫茶。まだ、ディスコができる前だから。今から30年くらい前ですよね。60年代の終わり。
——そのゴーゴーダンサーを何年ぐらいやっているんですか?
浦沢 1年半ぐらいじゃないの。一緒に働いてた人達が、オカマになってくんだよ。それが、気持ち悪くてさ(笑)。
——なんでオカマに?
浦沢 食えなくなって、新宿2丁目みたいなところに行っちゃうんだよ。
——なるほど。ゴーゴーダンサーを辞めて、そのテレビ番組を作る会社に行くんですね。なんていう会社なんですか?
浦沢 ペンタゴン。
——凄い名前ですね。
浦沢 結構、有名だったんですよ。河野洋さんという方が作った会社で、錚々たるメンバーがいたんですよ。
——そこで台本運びのアルバイトから入って。
浦沢 その時は脚本を書くつもりは全然なかったんですよ。
——その業界の印象はどうでした?
浦沢 いい事務所でしたよ。給料は安いんだけど、移動は全部タクシーを使ってね。
——へぇ~、バブリーですね。
浦沢 タクシー代をもらってタクシーを使わないで済ますと、1日に千円ぐらいになっちゃう…それで生活できる、みたいな(笑)。凄く楽でいいなぁと思った。
——なるほど。
浦沢 そこでバイトをやりながら、まだ、ゴーゴーをやっていたような気がする。お店に「来てくれ」って言われて。ホステスと同じだから、お客さんに「あの人、居ないんですか?」って言われると、行かなきゃなんない。
——人気者だったんですね。
浦沢 お客がついてたの、僕に。
——お客は、男の人なんですか?
浦沢 女の人が多かった。オバさん達みたいな。男の人もいたよ。
——ペンタゴンでバイトを、どのくらいやっていらしたんですか?
浦沢 1年半ぐらい。そこで、河野さんに「ここで何をするか、ハッキリした方がいい」って言われたんです。タレントになるのか(笑)、マネージャーになるのか、作家になるのか。で、「作家になります」って言ってたら、次の日から作家ですよ。
浦沢 『ゲバゲバ』は書いてないと思う。『コント55号のなんでそうなるの』だったかな。『カリキュラマシーン』だったかな。どっちが先かは覚えてないけど。
——前後して『カリキュラ』『なんでそうなるの』が放送されて、その両方に参加してるわけですね。
浦沢 そう。『カリキュラマシーン』に、一番下っ端で参加して。
——『カリキュラ』は、やってて楽しかったですか?
浦沢 楽しかったですよ。今までで一番楽しかった。
——具体的には?
浦沢 あれね、15分番組なんですよ。1人でその15分を責任を持ってやるんです。その中にはアニメもあるし、好きに色んな事を書いていいんですよ。
——『カリキュラ』で思い出深い事は、あります?
浦沢 ありますよ、そりゃ。今、僕がやってる事は全部『カリキュラマシーン』でやった事だと思うもの。
——はあはあ。
浦沢 それ以降、『カリキュラマシーン』以上の思いつきはしていないはずだし。『カリキュラマシーン』で思いついた事を、小出しにして使っているような気がする。二十歳ぐらいの時です。あの頃は自分で天才だと思ってた。
——(笑)。
浦沢 一日中、ずーっとひとつの短いギャグを考えてるんですよ。それだけやってればいい、みたいな。凄く楽しかった。
——具体的にこんなギャグをやったとかって、あります?
浦沢 覚えてるけど、それはあんまり言いたくない(笑)。なんか言葉で言うと、つまんなく聞こえる。
——あ、なるほど(笑)。と言うくらい、自信作なんですね『カリキュラ』は。
浦沢 参加していた構成作家の中でも、俺が一番面白かったと思うもん。他の人は、その前の『ゲバゲバ』をやってきて、続けて『カリキュラマシーン』をやっていたから、ちょっと疲れていたんです。(つづく)
以上、「アニメージュ」2001年3月号より引用。