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三沢和子 × 宇多丸 トークショー “2018年の森田芳光” レポート・『39 刑法第三十九条』(2)

【銀残しの映像 (2)】

 『39 刑法第三十九条』(1999)の撮影助手だった沖村志宏氏が、客席から発言された。

 

沖村「銀残しは、フィルムには銀の粒子が塗布されてまして、粒子が光に反応して映像をつくるんですけど、明るいところは白くなって、感光しない黒いところは銀が残るんですね。最終的に漂白といって残っている銀を取り払って抜けのいい画をつくるんですが、その漂白の行程を外して抜けの悪い画を作るという感じですね。発色を抑えて、黒い部分はさらに黒くなる」

三沢「銀残しも何パーセントってあるんだけど、この映画は100パーセントにしたんですね」

沖村「特殊現像で現像機も専用のものを準備しないといけなくて、ほんとに銀残しをやるのかってみなさん半信半疑でテストとして実景を撮って現像したら「あ、これだこれだ」となってやってみようと決まったという経緯があります。撮影前にオールスタッフっていってスタッフみんなが集まるんですが、そのときに監督が「この映画はまともな人間がひとりも出ない映画なんだ」と言われたのをすごく覚えていて。普通の画を撮っちゃダメなんだぞっていうことで、それで銀残しを選んだのかなって気がします。『セブン』(1995)で銀残しを使っていてアメリカではまた流行りだしたんですけど、日本で市川崑さんの『おとうと』(1960)と『幸福』(1981)くらいで、高瀬さんの発想でしょうけどあえて挑戦という。それ以降は別の日本映画でも銀残しがありました」

宇多丸「銀残しのおかげで、テーマに相応しい重量感が出ましたね。ちょっと超現実感もありますし」

沖村「ぼくはセカンドアシスタントで、主にフォーカス。ぼかす映像を多用していて、監督の指示なんですけど、普通はピント合わせるのが仕事なんで、ぼかせと言われると「えっ?」(笑) 監督は「おれがぼかせって言ってるんだから、自信持ってやっていいよ」と。いろいろ自分なりに考えてやったんですけど」

宇多丸「最初の樹木希林さんと堤真一さんのやりとりでも、ピント合ったりぼやけたり、切り返しで不安な感じ。かみ合ってねえなって感じが出てますね」

沖村「あのシーンも2〜3分あって。監督にぼかしてほしいって言われて、どうやってぼかすんですかって訊いたら「人間が息を吸うようにぼかせばいいんだよ」って(一同笑)。高瀬さんに人間が息を吸うようにぼかすってどうすればいいんですかって言うと「お前の好きなようにやればいい」と。台本の台詞を頭に浮かべながら、いろいろ工夫してあとは編集の方におまかせしました」

三沢「かもめのアップがぼけていていいですね」

沖村「あれは偶然というかいちばん最初で、あれを見た監督がぼけた映像がいいと。鉄橋やチューリップ、かもめとか実景を望遠でいろいろ撮ってました。『39』は望遠が多かったですね」

【出演者について (1)】

三沢「京香(鈴木京香)さんは『愛と平成の色男』(1989)で、オーディションで女子大生役でした」

宇多丸「『未来の想い出』(1992)にも一瞬出てましたね」

三沢「そのころは主演ってところに行ってなかったですよ。森田は自分が見つけた人だし、どっかで賞を取るような演技をさせたいってところにこの本だったんで、これは京香さんだと最初から。京香さんは勝負かかってる役ということで、マネージャーもなしでいらしてましたね。イン前に監督とふたりだけで3時間くらい本読みやって、だいたいのキャラはつくったみたいです。昔から最初が勝負で、イン前か初日で。初日にすごく時間がかかることがありますけど、そこでつかんじゃうと後はスムーズ。『それから』(1985)のときに助監督の方が入れ代わって、1日目2日目はすごく押して。「三沢さん、こんなことで撮り終わるんですか」って言われたんですが、その後は順調に行ったという」

三沢「堤(堤真一)さんはまだテレビにそんなに出てないころですけど、以前にNHKの単発ドラマに主演しているのを見てすぐ『バカヤロー2』(1989)のコンビニ店員の話をやっていただきました。そのころからうまいって判っていたので、いずれ自分の組でもと思っていてこの難しい役は堤さんでしょと。わざとらしくなったら終わりですからね」

宇多丸「『バカヤロー2』は拝見してましたけど、そんなに強烈に覚えていなかったので。いまだったら堤真一ですから、出てきた瞬間に曲者じゃないですか(笑)。『ユージュアル・サスペクツ』(1995)でもケビン・スペイシー出てきたら曲者じゃと。このお二方、ほんとに見事ですね。脇を固める方々も豪華ですね」(つづく