私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

園子温 × 諏訪太朗 トークショー レポート・『ヒミズ』(1)

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 住田(染谷将太)は、借金を重ねて家に居着かない父(光石研)や使い物にならない母(渡辺真起子)に代わって、中学3年生にして家業の貸しボート屋を営んでいる。そんな彼に好意を寄せ、邪険にされてもおせっかいを焼く同級生の茶沢さん(二階堂ふみ)。あるとき、住田の父が戻って来るが、相変わらず暴力をふるい息子を罵倒する父を住田は手にかけてしまう。

 古谷実の同名マンガ(講談社)を映画化した『ヒミズ』(2012)は、園子温監督としては珍しく正調青春ドラマの力作。ラストにて若い世代(やかつて若かった世代)にストレートなメッセージが叫ばれており、観客としてはかなり意外なものであった。前半は演出が空回りしていて見るのもつらかったのだが、後半とラストでかなり巻き返した感がある。

 6月、川崎市にて『ヒミズ』の上映と園監督と諏訪太朗氏のトークショーが行われた。

 諏訪太朗氏は園作品の常連で『ちゃんと伝える』(2009)、『冷たい熱帯魚』などにも登場(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや、整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。 

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【『ヒミズ』の脚色(1)】

「最近芸人デビューして座・高円寺水道橋博士とかと出たんだけど、芸人枠の仕事が増えてきた。監督から芸人へ」

諏訪ビートたけしさんの逆だね(一同笑)」

 

 園監督にとって、原作の映画化は『ヒミズ』が初。

 

古谷実さんのは『ヒミズ』以外にもいろいろ企画が来ていたんだけど、『ヒミズ』がいいとこっちから持ってった。古谷さんにとって『ヒミズ』は『行け!稲中卓球部』のリアル版だと思うね」

 

 『ヒミズ』は2011年の東日本大震災後に撮影され、瓦礫も画面に登場する。

 

「あんなことが起きているのに、平然とやるのもなと。原作では冒頭から「普通の人は生きていれば交通事故に遭ったりすることはない」みたいなことが書いてあって。(原作が発表されたのは)2001年だから」

 

 脚本も園監督が担当しており、原作との変更点は多い(やはり原作を知る人の賛否は分かれている)。ヒロイン・茶沢さんが異常な母(黒沢あすか)の下で育ったというのは映画オリジナルの設定。

 

「ださい自分でもかわいい女の子に好かれるっていうのだけど、バックボーンがいるかなと。茶沢にも感情移入できる要素をつくらないと。黒沢あすか(演じる母親)があの首切り台をつくっていたのは、知り合いの人の実話。取材すると(実際に)いろんなことが起きてるね」

 

 主役コンビの周辺にいる同級生のキャラは、みな大人になった。

 

「染谷と二階堂の周りに若い人がいると、孤独感が際立たない。若い人は、あのふたり以外は一切入れないと。ゆるくなってしまうんで、おまわりさんもなくしました。

 あと原作ではセックスしまくってる。でも昔からセックスに執着はないです(笑)。私生活では執着があるけど、映画では面白くない。『愛のむきだし』(2009)のふたりも手をつないで終わった」

諏訪「自分でするのも面白くないよ(笑)。おれはピンク映画でデビューしたけど、伴明(高橋伴明)さんには(撮影中に)怒られる。アフレコだから「乳首隠すな」とか(笑)。園監督は、本読みとかリハでは細かく言うけど本番は自然体ですね」

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 劇中で渡辺哲と窪塚洋介が夜盗に入るのは、ハーゲンクロイツを飾って「原発サイコー」などと叫ぶ男の部屋。

 

「殺されるなら、すごい悪人にすれば見る人も厭な気にならないだろうと。だからナチス好きの薬の売人に(笑)。

 カミュみたいに暑かったから父親を殺したとか、そういう不条理感はいらない。原作みたいに、連載マンガは読者を驚かせなきゃいけないからそういう要素も必要になるけど。

 バスで(通り魔の男が中年の女〈木野花〉を)刺すシーン、原作では夢なんです。でも映画の中でわざわざ夢にするのもなって。だからどっちにとってもいいよと。

 それと原作の化け物はアーティストに頼んで検討してみたけど、結局なしにしました」

 

 原作ではラストで主人公が自殺するけれども、映画版では自首を決意。

 

「ラストでは自殺させようか迷って、現場でもギリギリまで迷って。2011年に自殺させるのはどうかなって。『希望の国』(2012)では自殺するけど。さんざん迷ってああなった。

 (ハッピーエンドと言われるが)自分ではあんまりハッピーじゃないと思うけど。いまはピュアな二階堂も、最後までつき合うかな。何回かは面会に来るかもしれないけど…。それも含めて人生だね。昔の恋人っていうんだったら、それでいい」(つづく