今年5月から6月にかけて、東京・阿佐ヶ谷の映画館“ラピュタ阿佐ヶ谷”にて、戦争をテーマにした官能映画特集というユニークな特集上映“戦争と六人の女”が開催された。この企画は、坂口安吾原作『戦争と一人の女』(2013)の公開を記念して行われることになったという。
“六人の女”と銘打たれているように、『秘本 袖と袖』(1974)や『悪徳の栄え』(1988)などの6本が上映されたわけだが、そのうちの1本が藤井克彦監督『残酷 黒薔薇私刑(リンチ)』(1975)。
時は戦時中。名家の女中(谷ナオミ)と、その家の兄(五條博)と妹(東てる美)。兄は思想問題で特高に追われていて、その居場所を吐かせるために、特高は女中と妹を拷問・レイプした。結果、妹は精神を病んでしまう。
やがて逮捕された兄は、戦地へ送られ、2年後に失明して帰って来た。主人公らの家にも軍が駐留することになり、女中や妹はまたしてもいいようにされてしまう。女中は、特高の男たちへの復讐を誓うのだった。
筆者は何年も前に見たロマンポルノの佳作『団鬼六 花嫁人形』(1979)が印象に残っていて、それを手がけた藤井克彦監督の作品ということで見に行ったのだけれども、この『黒薔薇私刑』は個々のシーンの演出力は感じられるものの、全体の満足度はそれほど高いものではなかった。いまは『渡る世間は鬼ばかり』シリーズ(1990~)のうざい小姑で知られる東てる美が、当時18歳でかわいらしく、AKB48の峯岸みなみと似ている気がした。
6月14日、『黒薔薇私刑』上映後にロマンポルノを語るトークショーが行われた。出席者は、プロデューサーの成田尚哉、脚本家・映画監督の荒井晴彦、映画評論家の寺脇研の各氏である。荒井・寺脇両氏は、先述の『戦争と一人の女』の制作者でもある。
『黒薔薇私刑』の終了直後に、筆者の真後ろの席から成田尚哉プロデューサーが立ち上がって壇上に出て行ったので、ちょっと驚いた。
【『黒薔薇私刑』の悪口 (1)】
(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや、整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)
寺脇「満員なんですよ。『戦争と一人の女』で、こういう光景を見たかったね(一同笑)。われわれはロマンポルノの表現力に挑んだつもりなんですが、でも向こうは強い」
成田「荒井さんが来られないかもしれないっていうから、ぼくは補欠要員(一同笑)。ぼくの入社は1974年かな? この作品の一年前ですね」
荒井「こっちはタクシー飛ばして新宿から来たのに、ものすごくつまんない映画。ひどいね、これ。特高がSMやるっていうなら、おれも特高になりたかった(一同笑)」
トークショーに出るくらいだから、荒井氏はこの映画を評価しているのかと思ったら、見ないで引き受けたらしい。上映直後にその映画を罵るトークというのもちょっと珍しい。
荒井「このお兄さんは思想犯なのに、捕まってあっさり兵隊になるっておかしい。何で転向のところを端折ってるの?」
成田「そりゃ75分ですから(一同笑)」
荒井「お兄ちゃんはニューギニア戦線に行ったみたいだけど、これいつの話なの? 昭和10年代にあんなアカはいません。既に日本共産党は壊滅している」
寺脇「これはお客さんをそそる映画であって、考証するものじゃないから」
荒井「あの銃は、弾丸が何発入るの? どう見ても7発撃ってたよ(一同笑)」
見せ場になるのが拷問シーン。
荒井「あんな吊るされ方、するの」
寺脇「なんかハンモックみたいな(一同笑)」
荒井「エロシーンは必要だけど、そこから発想するとね。谷ナオミを脱がせるために、特高持ってくるってのはどうよ? SMとか近親相姦とか材料はいっぱいあるけど、どうもな。特高は、拷問はするけどファックはしないよ」
寺脇「最終的には娯楽映画というか、商業映画だから」
荒井「商業ならデタラメでもいいの? 客が入るか入らないかってだけで、どんな映画も商業だよ。考証だけじゃなくて、何をやろうとしたのかなって。自分の中の世界観にしないと、作品どころか、商品にもならない」(つづく)
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