私の中の見えない炎

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三田佳子 × 村上佑二 × 木田幸紀 × 長沼修 × 鈴木嘉一 トークショー “制作者が読み解く市川森一の魅力” レポート・『サハリンの薔薇』『山河燃ゆ』 (2)

【『サハリンの薔薇』(2)】

長沼「普通ならそれぞれの局でつくって並べて放送するんですが(『伝言』〈1988〉は)そうじゃなくて1話の中で全国が出てくる。それぞれの局がそれぞれのディレクターで撮る。不思議なつくり方で、各地の空気や気温を大事にして、それを組み合わせる。NHKさんはやろうと思えばできると思いますけど、前代未聞」

 

 この日上映された『サハリンの薔薇』(1991)は、チェーホフの作品で会話するという異色作。

 

長沼「何をやるかも決まってなくてサハリンへ行ってみようということになって。チェーホフの戯曲集を持っていて、宿で読んでいたようですが、この作品は全く市川さんの発想でできています。

 市川さんの世界は、ホンを見るまで想像ができない。えってこともある。サハリンは、島は大きいけど人はあまり住んでなくて、町も小さい。小さい劇団がひとつだけで女優さんもいない。そこで主人公の女の子をさがさなきゃいけない。後でプロデューサーがディレクターがどれだけ困るだろうとかは考えてもいない(笑)。でも面白さはありますね。

 (主演の)役所広司さんも大変で、本物の俳優はほとんどいない。医者役は東京のモデルさんのプロダクションの人で、ちょっとお芝居をしたことがある程度。(ヒロイン役は)地元のアマチュア劇団にお願いして。勘のいい子で、後でサハリン教育大学の日本語学科に進んだんですね。何年かして、すすき野の焼き肉屋でアルバイトしてたんです(一同笑)。すすき野に綺麗なロシア娘がいて似てるぞって噂で、行ってみたら彼女。怪しげなルートで日本に来た。とにかく帰りなさいと言って返しました。その後ビザをとって来て、いまはロシアの西のほうにいるそうで、悲しいこともあったようで、『サハリンの薔薇』そのものですね」

村上「市川さんには決まっているものは破りたいという願望があって、ご自分でもおっしゃってました。意志的ということでなく、決められたものは好きじゃないのよと(笑)。『サハリン』の場合と似て、元NHK佐々木昭一郎も素人の少年少女をどういう勘なのかさがしてくる。ああいう感覚はわれわれ凡人には判らない。市川さんも魔法みたいなところもあって、どんなふうにつくりましょうかと話していると、ペンを持って喋らないでいて、突然こちらが驚くようなことを言う(笑)」

 

【『山河燃ゆ』(1)】

 市川森一は『黄金の日日』(1978)、『山河燃ゆ』(1984)、『花の乱』と3本の大河ドラマを手がけている。村上氏は、そのうち2本で組んだ。

 

村上「出会いは珍妙なことでして、妹さんの愉美子さんと、私の友人の音楽プロデューサーが結婚しまして、彼の家を訪ねるうちにそこがサロンみたいになって知り合いました。『快獣ブースカ』についてぶっちゃけた話をされたり、アトランダムなところから始まって。そこで(知人の)演出家が演出をやるので、市川さんのをやったらどうだい?と。『夢に吹く風』(1975)というもので、市川さんにとって夢という文字は欠かせないんですね。

 私が初めていっしょにやったのは『風の隼人』。直木三十五「南国太平記」を連続ドラマでやって、脚本家と演出家としておつき合いしました。乱暴な演出に市川さんが目をむいて(笑)。『山河燃ゆ』(1984)と『花の乱』で大河ドラマを2回やって。その度に違うんですが、ぼくからみると通底するものがある。いろんな分野を彼はやるから、社会派と言うより“世間派” 。そんな感じで長いことおつき合いしたのでございます」 

村上「『淋しいのはお前だけじゃない』(1982)にはまいりまして、これをおれにやらしてくれないのという嫉妬がありました(笑)。サラ金の取り立てが西田敏行で、大衆芝居の役者になって人情劇を演じることになっちゃう。取り立てという現実とフィクションとが化学反応を起こす。このアイディアすごいな。私が市川さんとやったのは全部つづきもので、単発やショートストーリーをやりたかったんですが、タイミングがずれてできなかった。『淋しいのは』ほどやりたいと思ったドラマはないですね。作家の丸谷才一さんが「朝日新聞」に投稿して、この作家はリアリズムをフィクションに転出して天才的だと書いていました。その通りで、市川さんの天才をあんなに感じたことはないですね」 

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鈴木「主人公が商人で武将でないというのが『黄金の日日』で、『山河燃ゆ』は現代、『花の乱』は室町。3作とも大河ドラマで取り上げていない時代や取り上げてない層の主人公だったり、市川さんはプロデューサーや演出家といっしょにチャレンジングな大河をやってこられました」

三田「『黄金の日日』は画期的なキャスティングで、松本白鸚さんがルソンという役をやられて、周りが唐十郎さんや根津甚八さんが面白いキャスティングでした。私は出ておりませんが、こういうのお好きなんだろうと。夫の高橋康夫さんがディレクターだったでしょうか。いろいろやってて、何?というとっかかりもあったんですが、冒険的な作品でしたね。海外ロケのフィリピンの沼とか死んじゃうんじゃないかというようなところで、唐さんなんか喜んだんじゃないですか。死ぬか生きるかみたいなところまで行って、主人公の人生を掘り下げた。その地域や空気をみんなほしいというのは、市川さんらしい。大河ドラマにそういうのを吹き込んだと思っています」(つづく) 

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