巨匠脚本家・市川森一の功績を振り返るシンポジウムが2日連続で行われ、2日目には東芝日曜劇場『サハリンの薔薇』(1991)と大河ドラマ『花の乱』(1994)が上映された。
上映後に『サハリンの薔薇』を演出した長沼修、『花の乱』の主演・三田佳子、メイン演出の村上佑二、木田幸紀プロデューサーが登壇。司会は前日と同じく放送評論家の鈴木嘉一氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
【『サハリンの薔薇』(1)】
長沼修氏は北海道放送社長・会長や札幌ドーム社長を歴任。市川森一とは東芝日曜劇場などの単発ドラマで組んだ。
長沼「最初にお会いしたのは45年前、31歳。市川さんは33歳でした。私の最初の演出は倉本聰さんのホンでした。守分寿男という師匠が倉本さんとすごい作品を連発してまして、私も倉本さんと組んだのですが厳しい指導を受けまして、かなわないなと(笑)。同世代の脚本家の方とやりたいなと思って、どうして市川さんにしたのかは覚えてないんですが、連絡して東芝日曜劇場を北海道でやるので来てくれないかとおそるおそるお願いしたんですね。
来られた感じがおしゃれで繊細で、北海道に合わないほど都会的。大丈夫かなと内心思ったんですが。打ち合わせしてたホテルのラウンジに女性がいて“あの人、ひとりで旅してるのかな”って話してたんです。次の日、小樽へ行くことになって、小樽は長崎みたいな坂のある街なので市川さんは興味を持ったんだと思うんですが、いろんなとこを歩いて最後に林の中の白い図書館に着いたんです。それを入っていかずにふたりで“どんな司書がいるんだろうね”とか言って眺めていて、後で中にも入ったんですが、それでできたホンが『林で書いた詩』(1974)。東芝日曜劇場の市川さんの最初の作品です。出だしの2ページがト書きで、俳優さんの動きや設定だけじゃない文学的な表現があって。主人公はもてない。桜木健一さんで、『柔道一直線』(1969)などで元気な若者を演じていた彼がもてない設定の司書で、彼の前に髪に枯れ葉がついていても気づかない不思議な女が現れるというファンタジックなホン。その書かれてる女性像がホテルにいた女性で、会った翌朝に朝食の席で市川さんはその女性と向かい合っていたんですが(笑)、取材してたみたいでそういうところまめな方でした。その後も7本、愉しい仕事をさせていただきました。
各局でプロデューサーの相性とか地域性で書き方を変えてたと思いますが、私とは一貫して“虚の中の実”だったかなと。私は音楽好きなんですが、『林で書いた詩』にも、音楽が入る隙間がある。市川さんの脚本には台詞に音楽が染みこむ空間がある。『バースデー・カード』(1977)では市川さんと相談して、話の骨だけつくってから音楽を先につくってそれからシナリオに入りました。音楽は深町純さんにお願いして。中園ミホさんは、印象に残った作品としてこれを挙げてくださいました(笑)。札幌のスキーのジャンプ台をふたりで見に行って、すごく飛ぶけど必ず転ぶ選手がいる、もう少し距離を出さなければちゃんと立てるのにって私が言うと、市川さんはしばらく黙って“きっと鳥になりたかったんじゃないかな” 。できた台本では、主人公がストーカーで郵便配達。局長に呼ばれて“お前、放送局の監督官庁どこか知ってるか? 郵政省だよ”(一同笑)。こんな郵政省の職員がストーカーして殺人事件起こすなんてとんでもない、変えろと。市川さんは“え、これ郵便配達だから面白いんだよ” 。最終的に、クリーニングの配達になりました(笑)。主人公はジャンプ台を登って、飛び降りて死ぬなら普通ですが、鳥になる。ありえないことのためにリアルなことを犠牲にする。ジャンプ台の上に何故かスキーがあって、履いて飛び降りる。クライマックスで、何でそこにスキーがあるのか。無理やりやっちゃうのが市川さんで、倉本さんとは対照的で、それが市川さんの魅力でした」
鈴木「地方局ではセットがつくれない。市川さんから聞いたことがあるんですが、その地全部がスタジオと考えればいいという。その地を歩いて、プロデューサーやディレクターと話すと触発されると言われてました」
地方局の共同企画『伝言』(1988)は、4回連続で列島を縦断する物語が展開する。
長沼「(東芝日曜劇場の)半分以上がTBS制作で石井ふく子プロデューサーが視聴率をとっていたんで、地方局は自由に勝手な作品をつくれた大変いい時代でした。地方局はその地域の色を出してたんですが、あるとき4人のプロデューサーが、各地でつくっているから全国を舞台にひとつの話ができないかと。無理だよと言ってたんですが、どの局も市川さんとつき合ってたんで、市川さんに書いてもらえばできるんじゃないか。企画が通りましてバブルのころでお金も出まして、東京の庚申塚にある土地の権利をめぐって全国の権利者を描いていく」(つづく)
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