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私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

木皿泉 初心者のための主要作品レビュー テレビ編 (1)

テレビ 批評・感想

 一話完結のテレビ『おやじの背中』(2014)は、巨匠シナリオライターたちがリレー方式で登板するという試みである。今後登場するのは、山田太一池端俊策三谷幸喜井上由美子木皿泉などの面々であるが、その多彩なライター陣の中で一、二を争うくらいコアなファンの期待が高いのはおそらく木皿泉であろう。

 木皿泉は、『すいか』(2003)により一躍注目を集めて第22回向田邦子賞受賞。つづいて『野ブタ。をプロデュース』(2005)をヒットさせ、不動の地位を築いた。

 近年も、舞台『すうねるところ』(2012)やアニメーション映画『ハル』(2013)のシナリオ、小説『昨夜のカレー、明日のパン』(河出書房新社)など精力的に活動している。だが『Q10』(2010)を最後に民放のテレビの仕事からは遠ざかっていて、今回の『おやじの背中』は1時間の単発とは言え久々の新作である。ファンの静かな注目が集まっていることは想像に難くない(NHKBSプレミアムでは2本の作品があった)。

 あっという間に放送まであと数日であり、これを機にテレビの木皿作品について簡単に振り返ってみたい。

1.『すいか』(2003)

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 信金に勤める冴えない主人公(小林聡美)。ある日、同僚(小泉今日子)が3億円を横領して行方をくらました。主人公は何かに衝き動かされるように実家を出て、風変わりな下宿屋に入居。主人公と下宿屋の住人たち(ともさかりえ浅丘ルリ子市川実日子)との奇妙な夏が始まる。

 この作品以前に『やっぱり猫が好き』(1990〜1991)などを手がけているけれども、筆者は未見かあるいは内容を失念してしまったので、レビューは出世作の『すいか』からとさせていただく(すみません)。

 『猫が好き』の主演者であった小林聡美との縁により木皿は初の連続ドラマ脚本に抜擢されたらしいのだが(木皿泉『木皿食堂』双葉社よると「どさくさに紛れて」書くことになった)、それにしても当時“スローライフ”が注目されていたとは言え、平凡な30代女性をめぐる人間模様という地味すぎる内容には驚かされる。

 日常生活の些末な素晴らしさを描きながら、印象的な台詞や人生訓を散りばめ、時おり放り込まれるギャグや毒など木皿作品の構成要素は出揃っている。人生や日常を考察するという哲学的コンセプトや各話のテーマがありつつも、それを逸脱してエピソードが繰り出されるという、つかみどころのない構成が飄々とした魅力を醸す。

 夢、猫の言動(?)など超現実的な事象も巧みなスパイスで、とりわけ第6話の嵐の夜に幽霊が帰ってきた(らしい)シークエンスは奇跡的な名場面となった。

 

生きている幸せを、見ることができるのは、そこから遠く離れた人だけなのかもしれません」(第6話)

 

 放送から10年を経ても「『すいか』観ましたよ」と言われるのだという(『すいか2』〈河出文庫〉)。

すいか DVD-BOX (4枚組)

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2.『野ブタ。をプロデュース』(2005)

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 ドライな男子高校生(亀梨和也)と、“親友”を自称し彼にまとわりつく友人(山下智久)。ふたりは、陰気な転校生(堀北真希)をプロデュースして人気者に仕立てようと画策。やがて事態は思わぬ方向へ転じる。

 同名の文藝賞受賞作(河出文庫)を原作に使い、ジャニーズの人気者を主人公に据え、ヒット作狙いの意気込みを感じさせる連ドラ第2作(ただし原作は基本設定を除いてほぼ解体された)。木皿自身は、当初は河野英裕プロデューサー(日本テレビ)に提示された原作にとまどったようで、「(自分は)その気になれば若い人たちのことなんて全然気にかけなくてもいいし、関わらなくても死ぬまでやっていける歳」とも思ったが、「こんな歳になったからこそ、若い人たちにメッセージを残してみようかな」という心境に達したという(『木皿食堂』)。それゆえか、『すいか』よりも他者と関わることの難しさを強調して描いているような感がある。

 

本当のことを受け入れるのって、すごくつらいけど…でも、できないことじゃないから」(第9話)

 

 底流に流れる無常の悲哀や個性豊かなキャラ群像、生霊などのファンタジックな面は健在だけれども、一話ごとの起承転結はやや強められてある意味で見やすくなっており、語り口でも若い視聴者を意識したことが伺える。筆者はこの作品が初の木皿泉鑑賞であったが、判りやすく見せ場も多いゆえ木皿初心者に適していよう(他作品に触れた後では、『野ブタ。』は口当たりが良ぎするようにも思える)。

 ちなみに筆者は『野ブタ。』で堀北真希さんに夢中になってしまうのだけれども、放送の6、7年後に出会った中国人女性もこれを見て亀梨和也さんのファンになったと言っていた。『野ブタ。』の魅力は国境を越える!(笑)(つづく

野ブタ。をプロデュース DVD-BOX

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