『日本以外全部沈没』(2008)や『地球防衛未亡人』(2014)、『三大怪獣グルメ』(2020)などで知られる河崎実監督。その河崎監督が、初めて念願だった怪獣映画に取り組んだのが『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(2008)である。
『宇宙大怪獣ギララ』(1967)の主演怪獣を約40年ぶりに復活させた入魂の作品で河崎監督の私淑するビートたけしも魔人役で出演しているが、不本意な結果だった。映画ジャーナリストの斉藤守彦氏のサイトから以下に引用するインタビューでは、河崎監督の思いが赤裸々に吐露されている。
——河崎さん、「ギララの逆襲」やってる時、「オレは命賭けてるからね」って言ってたじゃないですか。
河崎 賭けてたもの。
こともなげに言い放つ、この軽さ。筆者と河崎実監督とは、彼の『河崎実大全』でインタヴューをさせてもらった他、メールなどでやりとりをしたり、時に仲間うちの飲酒にお誘いする、そんな関係である。
その河崎監督が、「オレは命賭けてるから、今回」と豪語した『ギララの逆襲」。彼は自身の事務所であるリバートップを通じてこの映画に出資をし、また監督として、プロデューサーとして参加を決めた。「映画とは、他人の金で自己表現が出来ること」などとほざく、どこぞの御仁は嘲笑するだろうか。
しかし、本気で自分が撮りたい作品を実現させるためには、どこかで経済的なリスクを許容しなければならないのだ。オーソン・ウェルズも、スタンリー・キューブリックも、フランシス・フォード・コッポラも、そして黒澤明もそうしてきたのだ。
■ 最初は「東京タワー/時々たけしと、しょこたんと、ギララ」を目論んでいた(笑)!
——どういう経緯で決まったんですか?
河崎 衛星劇場の深田さんという部長が、一昨年の国際映画祭で『電エース』を見て、「ああいうのを、うちでもやって下さい」って。それでギララの右手が残っているっていうんで、これを伏線にして、松竹の不良債権(笑)、いや、デッドコンテンツをなんとかしましょうと。それで鈴木さん(松竹の鈴木忍プロデューサー)が出てきて、タケ魔人というキャラクターを出すことになり、鈴木さんが「洞爺湖サミットがあるんで、それに便乗しましょう」って(笑)。
——あ、シノブのアイデアだったんですか?
河崎 その前に『東京タワー』に便乗しようとしたんですよ。リリー・フランキーの。「東京タワー/時々たけしと、しょこたんと、ギララ」(笑)。東京タワーの下に怪獣がいて、東京タワーは怪獣の角だったという(笑)。東京タワーってのは、我々としては怪獣映画の象徴だから。モスラもガラモンも、キングコングも壊した。
——で、それはダメが出たんですか?
河崎 ダメに決まってるじゃないですか(笑)。日本テレビが「東京タワーってタイトルは使うな」って言ってきた。
——ずーっとギララやりたかったんですか?
河崎 言ってみれば、怪獣映画って男の夢じゃないですか。ゴジラを撮りたいに決まってるけど、こんなゲリラ男に撮らせてくれるわけない。プロデュース的なことを判断して、オレにギララが来たのは運命かな、と。
——それが去年の年末の段階ですか?
河崎 年末の段階では、脚本が出来ていた。
——こういう話にしようってのは、最初から固まってたわけですか?
河崎 いや。オレの場合はね、プロットを書くんですよ。あとは右田昌万氏に書きかえてもらって、キャッチボールしながら書いて行く。出来たものは100パーセント、オレのものになってるってこと。いつもそうなんですよ。その時点で映画のルックは決まってるんですよ。だから、どうでもいいヤツらが入ってきて、朝まで徹夜して話すとか、そういうことは一切ないんです(笑)。
——松竹サイドからの要望って、どんなことがあったんですか?
河崎 一切ない。
——一切?
河崎 大御所Y監督が怒ったんだよ。
——Y監督、ずっと映画を撮ってきたけど、唯一やってないジャンルが怪獣映画だと。それでプロデューサーに「シナリオ見せろ」って言ってきたらしいですね。
河崎 監督がホンを直したって話も聞きましたよ。「コチラ」って怪獣映画を作りたかったらしいんですよ、60年代に。「あちらを立てればこちらが立たない」のコチラ。その話を聞いた時、爆笑しましたよ(笑)。
——なんだかなあ…。
河崎 オレは昭和の怪獣映画を作りたかった。パターンの怪獣映画ね。狂ったものを作ろうとしてるんだから。
——「命賭けてる」ってのは、名言だと思いましたよ。目がマジなんだもの(笑)。
河崎 みんな「またふざけて言ってるんだろ」って思ってたようだけど。でも実はマジだったんですよ。
これがプロデューサー・デヴューとなる、松竹の鈴木忍君とも、筆者は長いおつき合いがある。大御所Y監督の介入も、彼が巧みに交わしてくれたおかげで、制作は順調に進んだようだ。しかし、いざ興行ということになると、それはまた別問題があり…。(つづく)