【企画段階と角川春樹P (2)】
鎌田敏夫氏は、角川映画では『里見八犬伝』(1983)の原作・脚本、『天と地と』(1990)の脚本を手がけている。
鎌田「『天と地と』は途中で降りた。角川(角川春樹)さんが(プロデューサーだけでなく)監督なんでプロデューサーがいない。仲介役がいないんで角川さんと喧嘩になっちゃうと思ったんで、お金は半分だけもらって降りた。
監督、プロデューサー、ライターで三権分立じゃないけど、分けないとダメ。あのときは入れ込んでたからね。3年くらい前に京都で会ったとき、どうして降りたんだってタクシーで言われたんでその話をしましたね。個人的に親しくなるとあの人は喧嘩する」
『戦国自衛隊』(1979)は『アメリカン・グラフィティ』(1973)だが、『里見八犬伝』は『ローマの休日』(1953)だという。
鎌田「お姫さまが逃げて、途中で出世したいやつと会って恋愛して、最後は記者会見やってという流れが同じなんだ。
『里見』は、当初はアイドル路線だったのに(深作欣二)監督が怨念路線にした(一同笑)。あのときは毎晩京都で打ち合わせで贅沢でした」
【原作の改変】
『戦国自衛隊』(1979)ではシュミレーションSFの原作が、隊員のひとり(にしきのあきら)は駆け落ちの約束をした彼女(岡田奈々)を現代に遺してきたり、別の隊員(中康次)は村の娘(小野みゆき)と恋愛関係になるなど青春ドラマふうに改変された。
鎌田「変えたのはおれ。タイムスリップした人が信長になるっていうのが原作で、ドラマは原作にない。だからドラマをつくらないといけなかった。角川さんからああしろこうしろっていうのは全然なかった。
整合性を気にすると、情感がなくなっちゃう。もともとSFファンじゃなかったしね。
小野みゆきを使ってくださいといったのはぼく。目つきが良かったので。そのためにあの(村娘の)役をつくった。でも演技ができないので、台詞がひとつもないんです」
中盤で数人の隊員(渡瀬恒彦ら)がリーダー格の千葉真一に反逆する。
鎌田「渡瀬が入ったので、クーデターを起こそうと決めた」
武田勝頼(真田広之)が自衛隊のヘリに飛び移って斬りかかるシークエンスは印象的だが「角川さんが真田をつれてきたので、あの役をつくった」という。
ラストではわずかな生き残りを除いて、隊員たちは死んでいく。
鎌田「みんな死ぬのも最初に決めてた。(現代に)戻ってきても、することがない(一同笑)。岡田奈々といっしょになってもつまらないしね」
【その他の裏話】
主役の三尉は千葉真一、上杉謙信役は先ごろ亡くなった夏八木勲が演じた。千葉は危険なスタントに挑戦するかたわら、アクション監督も務めている。
鎌田「千葉さんは理屈っぽい人。『十字路』(1979)のときも台本にびっしりメモしていた。ちゃぶ台をひっくり返すなんてできないというから、いやあなたはやらなくてもこの役の人はやるんだと言ったんだけど(一同笑)。
千葉さんと夏八木と赤坂で朝まで話した。ずーっと話しても言ってることがよくわかんなくて、何となく終わった(一同笑)。結局何が不満だったのかよくわからなかったけど、役を理解したかったのかな。千葉さんはアクション監督だから(現場に監督がふたりいるので)斎藤(斎藤光正)さんはいやがってた。でも斎藤さんもアクションは初めてだったしね」
後半のクライマックスは川中島の決戦。富士山麓にて撮影された。出演した江藤潤は自身の作品歴の中で「最も悲惨な現場」と話していたという。
鎌田「富士山麓は一度見に行ったけど、あとはロケハンくらい。(現場が大変なのは)おれがやらしたみたいなもんから。三菱に頼んで戦車までつくりましたしね。
最初から自衛隊に協力は頼んでない。あのころはそういうところ(お上)には頼まないって風潮があったね。戦闘シーンも本当によくやってくれた。ぼくは書いてて現場のことは考えません(一同笑)」(つづく)